岡山大学大学院医歯学総合研究科ヒトES細胞倫理審査委員会 第6回委員会議事録
日時:平成16年8月23日(月)午後1時〜3時
場所:歯学部第一会議室(歯学部棟2階)
出席者:A,B,C,D,E,H
欠席者:F,G,I
資料: 岡山大学大学院医歯学総合研究科ヒトES細胞倫理審査委員会第5回委員会議事録(案)
「ヒト胚性幹細胞(ES)細胞の肝細胞への分化誘導およびその体外式バイオ人工肝臓への応用 に関する基礎的研究」申請書
使用計画書についての評価(案)
 
A : それでは,時間を5分過ぎましたので,F先生はまだ来られてませんけれども,会を始めたいと思います。
 会を始める前に,皆さんの机の上に1枚のカラーのビラがありますけれど,これは9月7日に行われる,ヒューマンサイエンス財団が先端医学を市民に知らしめようというプロジェクトで,主に,先端医学がどのような倫理的問題をはらんでるかということの話が行われる予定です。演者の中には,日本の医療倫理で随分活躍されてる先生方もいますし,それから市民の立場の方もいらっしゃいますので,当委員会の委員の先生方にもいろいろ参考になるのではないかと思われます。もしお時間がありましたら是非御出席くださればと思います。それから,周辺に関心のある人がいたら是非宣伝に努めていただければ有り難いと思います。これは前置きです。
 それでは,ただいまからES細胞に関する倫理審査委員会を開きたいと思います。どうもお忙しいところをお集まりくださいまして,ありがとうございました。
 まず第1に,資料ですけれども,既にお届けしてあります資料が,前回の議事録案と,それから新しく出されましたES細胞の使用計画書が既にお手元に届いていると思います。今日追加の資料がございまして,それは3点です。
 1つは,差し替えです。使用計画書の8ページ,これはマイナーなことですけれども,「使用に供されるヒトES細胞の入手先」という文言が落ちていたそうでありまして,この1枚を差し替えていただきたいということです。
 それから2番目は,I先生から,今日御欠席ですけれども,質問が1点ございまして,こういう質問がございましたということで参考までに付けてあります。内容は,ブタのES細胞が使えるのかどうか。もし使えるとするならば,ブタのES細胞でやるということに意味があるのではないかという御意見です。これは,後ほど具体的な研究計画書を議論する中でまた取り上げたいと思います。
 それから3番目に,今私がお配りしたんですけれども,使用計画書についての評価(修正案)という,3枚,ホチキスで留めた紙がございます。これは前回,古いバージョンの使用計画書を審議したわけですけれども,そのときに皆さんから,評価のリストが研究計画書を評価するのに余り適していないのではないか,もう少し修正の余地があるのではないかという御意見をいただきました。遅くなって申し訳ないんですけれども,今日お配りすることになりました。基本的には,項目はそれほど変わってないんですが,もう少し整理をして考えやすくしたということです。
 評価の基準といたしましては,まず大きく,A研究計画の倫理的妥当性,B研究計画の科学的妥当性,C研究設備,Dは研究体制,研究従事者,それからEがその他の項目でございます。それぞれ大きく分けてこういう点について計画書が妥当であるかどうか検討すればいいのではないかということです。研究計画の倫理的妥当性ということから,中にいろいろ項目を挙げてありますが,これはまた後で議論をしたいと思います。
 以上が今日お配りした資料の説明ですけれども,皆さん,お手元にございますでしょうか。よろしいですか。
 それでは,資料については行き渡ったものとして進めさせていただきます。
 まず第1に,前回の議事録の確認でございますけれども,議事録の案が既に事前にお手元に届いてることと思います。
 それ以外のことについて,この議事録について何か御意見ございますでしょうか。
 それでは,いよいよ本題に入るわけですけれども,よろしいでしょうかね,本題に入って。
 今日残念ながらG先生とI先生が御欠席で,最初にこの委員会の在り方を議論したときに,できるだけ全委員出席の下に可能な限り全員の合意を目指すという話になってると思います。その意味では,これは残念なことですけれども,今日可能な限り問題点を抽出するというか,議論をいたしまして,次回は全委員が出席できる日を選んで開催すると。同時に,申請者に来ていただいて内容の説明,それから委員からの質問に応じていただくという予定を考えております。
 それから,もし順調に進めば,その間いろんな作業もしていただいて,その次の委員会,
10月の委員会では何らかの方向性といいますか,結論のところまで持っていければというふうに思っております。勿論,それは内容次第,議論の流れ次第でございますけれども,一応大ざっぱにはそういう計画にしたいと考えております。
 この件について何か御意見ございますでしょうか。よろしいですか。
 それではまず,使用計画書についての評価(修正案),先ほどお配りした資料をご覧いただきたいと思います。
 ここには,さっき申し上げましたように項目を整理いたしました。まず計画書,何が大事かというと,当然それは研究計画の倫理的妥当性でございまして,研究目的が現在の日本における一般的な倫理基準に大きく抵触してないかどうかということがまず基本ではないかと思いますので,最初に書いておきました。そして,2番と3番は指針で求められていることでございまして,人体に移植するような臨床研究を含んではならないし,3に書いてあるような禁止事項があると。それから4番は,使うES細胞の樹立の経過,あるいは入手方法が妥当なものであるかどうかということであります。
 それから,Bは研究計画の科学的妥当性で,1番には,指針に要求されています研究目的が書かれてありまして,それの範疇に入るかどうか。それから2番は,計画されてる研究が動物実験,先ほども出てきましたけれども,動物実験等を含めて十分な基礎実験をやってあるかどうか。つまり,ヒトES細胞の段階に進むに十分な合理性があるかどうかという点が大事だと思います。それから3番目は,その研究自身が新規性,独自性を含んでいて,研究,計画が予定どおり進めば科学に貢献する,あるいは治療法や医療品開発に貢献するのかどうか。つまり,意味がない研究に使うのはよくないということで,そういう項目が入ってるということであります。
 それから,Cは研究設備でありまして,繰り返し言われてますように,ヒトES細胞を礼意をもって取り扱うに十分な研究環境が整っているか。それから,適切に保管管理ができるか。これは外部からの万が一の侵入ということも含めて,適切に保管管理ができるか。それから,研究を遅滞なく進めるための設備,器具は整ってるかどうか。それから,研究全般の公開性が担保されているかということであります。
 それから,Dは研究体制及び研究従事者でありまして,最初の部分に,使用責任者が妥当であるかどうか。それから,研究従事者が十分な知識,経験を持ってるかどうか。それから,研究の公開,公表が合理的に行われるかということと,最後に,ES細胞の第三者への譲渡は行わない方針であるということを確認するということであります。
 それからその他の項目に,1つは,使用計画書の書式の問題で,書式とか,あるいは文言の誤りとか,そういうもののチェックも必要であろうということでそこに挙げてありまして,最後に,使用機関の要件。これは前回も出てきましたけれども,必ずしも使用計画書が満たすべき要件ではありませんが,一応これはもう委員会で議論をしてるところでありますけれども,改めてその要件に合ってるかどうかってことを最終的に確認する必要があろうということであります。
 以上のような評価基準に従ってやってはどうかという案でございます。
 先ほど申し上げましたように,大きな項目の並び方は変わっておりますし,項目も,少し分け方も変わってますけれども,それぞれの一番小さな項目に関しては実はそれほど変わっておりませんでして,それを新しく整理し直して案を作ったんですけども,これについて今の段階で御意見があれば伺いたいと思います。よろしくお願いします。
 どうぞ,D先生。
D: 2ページのBの4の研究の公開性は担保されているかというのが研究設備の項目に入ってるんですけども,これは研究体制なのか,それともE,その他の2の使用機関の要件になるのか,ちょっと別なところじゃないかなと思うんですが,いかがでしょうか。
A : そうですね,研究の公開性と書いてありまして,それから,研究体制,研究従事者の7番に,研究成果の公表は合理的に行われるかと書いてあるんですが,これを一緒にして,まとめた方がいいかもしれませんね。そのようにいたしましょうか。よろしいですか,ほかの委員の先生。
 それではそういうふうに。
 ほかにございますでしょうか。
 
  もし今の段階で格段の御意見がなければ,具体的な中身の検討に入りたいと思いますけれども。
 E先生,何か。どうぞ。
E: 2ページのDの4の,小さな言葉の問題ですが,相当の「位置」にあるかというのは,「地位」でしょうか。
A : そうですね。分かりました,そのようにします。
E: Aの1ですが,これは非常に難しいと思いますね。一般的倫理基準そのものが揺れているというか,物差し自体が動いているわけですから。まあしかし,この文言があった方がいいと思います。
A : ありがとうございます。確かにいろんな意見があり得るんですけれども,なぜこれを入れたかというと,指針で求められていることに合えばそれですべてよいのかというと,恐らくあの指針も必要なことをすべて網羅してるわけではないですよね。そうすると,やはりどう考えてもこれは今の日本の倫理的な風土から見て似つかわしくないのに,指針で具体的に要求されているものは満たしているという可能性も排除できないとすれば,やっぱりこういうゼネラルな文言があって,その中身についてはその都度議論をしていけばどうかなと思って一応入れておいたんです。
 よろしいでしょうか。そのほかに御意見ございますでしょうか。
 それでは,一応現在の段階ではこれを一つのてことして考えていくということで,具体的な中身の審議に入りたいと思います。
 皆さん御承知のように,旧い使用計画書は時代の推移とともに現実に合わなくなったので,申請者がそれを取り下げ,現在の研究段階と社会の進歩に応じて,新たに使用計画書が提出されました。書式に関しましては,前回の審議で結論が出ましたように,当審査委員会あての特別な様式を作るのではなくて,文科省専門委員会に提出するタイプの申請書で,それを使って我々も審議をすると。各項目に関しましては,必要に応じて枠を広げて,十分な説明が可能なようにすればよろしいというお話をいたしました。その結果,こういう申請書が出てきたわけです。その申請書の後に,一連の参考資料が付いていると,そういう構造になっております。
 それでは,個々の問題には入っていく前に,全体としてこれをお読みになって,何か疑問点とか,これはちょっと基本的にこういうところが問題であろうというような,全般的な評価といいますか,御感想から伺えたらと思うんですけれども。
 C先生,まず口火をお切りいただけますか。
C: 全体的といいますか,この前議論になりました,動物のES細胞を使って実験をやってるかということに関しての記載が特になかったように思うんですけども,いかがでしたでしょうか。私は,見落としてるのかもしれませんけれども,ちょっとそれが読んでて気になったんですけども。
A : それはたしかどこかにあるんです。3ページの……。
C: これが出てきた,再度申請書を出されてきたということは,それが含まれているはずだと思って……
A : そうです。まず一つはですね,
C: どこに書かれてるのかちょっとよく分からない……
A : 一つは,前回の申請書は大量培養の話なんですね。要するに,三次元培養できるホローファイバーを使った,大量培養するだけの話で,それでES細胞を使った大量培養実験は一切されていないということなんですね。今回は,計画が全然変わっておりまして,主な目的は肝臓の細胞への分化であって,その分化した細胞を大量培養の中に入れて,そして人工肝臓として使えるかどうかをアッセイするという,そういう計画なんですね。それで,肝臓の細胞,肝細胞を単離してきてそのモジュールに入れると,ある程度人工肝臓として機能するということはもうかなり押さえられてるわけですね。そうすると残るところは,動物のES細胞を使って肝臓へ分化できるかどうかということがもう一つの重要な基礎実験であって,それはこの3ページの下から五,六行目あたりに……
C: あっ,ここにありますか。
A : ええ。マウスES細胞から肝臓への分化誘導……
C: 資料1。
A : ええ。資料がね……
C: 12,16,これですね。
A : 付いてるんです。恐らくその……
B: 46ページにその……
A : ええ。この46ページが,これが具体的なデータだというふうに思いますけど。
 そのほかにございませんでしょうか。
 E先生,全体の評価はいかがですか。
E: 問題は余りないように思われます。
A : B先生,何か御意見ないですか。
B: 特にはないと思うんですが,I先生から出された意見の,ブタES細胞を使ってこの実験計画を進めるというのは非常に意味があると思うんですが,I先生が質問に出されたように,ヒトの前にブタのES細胞を使って実験をする必要があるのではないでしょうかという疑問に関しては,どうなのかなと思います。
A : もうちょっと丁寧に調べてみなくてはいけないんですが,ブタのES細胞はアベイラブルじゃないと僕は理解してたんですけど。
B: その可能性は十分あると思います。ですから,その点も明確にした方がいいのではないかと思います。
A : そのことはもう少し調査をいたしまして確認をいたします。
 同様な御意見としては,サルのES細胞,サルが一番人間に近いわけで,サルのES細胞でやる必要があるのではないかという意見があると思います。ただし,一方では,マウスのES細胞でやって,サルでやって,ヒトに行かなくてはいけないのか,マウスのES細胞である程度基礎実験があればそれでいいとするのか。つまり,サルは確かに人に近いんですけれども,細かく言えば恐らくサルとヒトも違う。そうすると,マウスのESで,ある条件で行っていて,それでまたサルをやらなくてはヒトにいけないというのは,ある意味では無駄かもしれないんですね,これは。最終的にはまたヒトでもっと別の実験条件があるかもしれない。そこのところの判断はかなり難しいかなと。だから,そこのところは科学的妥当性のところでもう少し我々なりの判断を示す必要があるというふうに思います。問題点として残しておきましょう。
B: ブタが出てきたのは,ES細胞からではなくて,既にある程度肝細胞に分化したブタの体外人工肝臓を使って治療に使われているという話がありますので,その関係で出てきた質問かなと思いますので,明確にすればいいのではないかと思います。
A : それは後ほど具体的にもう少し詰めた議論をいたしましょう。
 D先生,何かございます,相対的に。
D: 読めば読むほどよく準備されてるなと感想を持ちました。ただ,4ページにもあるんですけども,いろいろ準備されて,いろいろな研究の融合体であるというような感じがするんですが,経費の持ち方といいましょうか,そこのところがどの研究と関係するのかなという部分で,最近,昨今いろいろ経費の使い方に関してもうるさいですから,目的外使用とかその辺が絡まなければいいなというのがちょっと,この文章を読んでいて思いました。
A : ありがとうございました。その件に関しては,プライマリーには,倫理委員会で審査するというよりは当事者の責任においてということだろうと思いますけれども,一応次回おいでいただいたときに,そのことについて御注意くださいということをひとつ質問されたらいいんじゃないですかね。
D: それと,もし関係があれば,記載されてるところの微妙な修正をしていただければ記録が残りませんので,よろしいかと思います。
A : では,次回おいでいただいたときにその確認をして,そういうサジェスチョンをすると,必要であれば,そのようにいたしましょう。
 H先生,いかがでしょうかね。
H: 今回の計画書はかなり専門的な言葉も一杯出てきて,理解が正しいかどうかという不安が常にあるので,いろいろ教えていただきながらもう少し理解を深めたいと思っておりますが,全体的には,前回から内容が変わってきたのだろうと。さっき先生がおっしゃったように,分化誘導というのがまずあって,それが出来上がったら,人工肝臓にするためにモジュールに詰めてやるんだという話になっていることは分かったんですけれども,使用の目的のところを見たときに,三次元立体培養することで分化機能の維持向上を図りうんぬんとなっていて,三次元で培養することに意味があるんだという話が引き続きあるような,分化誘導とモジュールに詰める間の部分というのがある,3つの研究があるのかなというのがあるんですけど,割とそこの部分は説明が薄いような印象がありました。
A : ありがとうございました。私たちも多少似ている研究を少しやってますので,そういう観点から少し想像を込めて言いますと,普通の培養で十分に分化させてからモジュールに入れるのか,あるいはむしろ,ちょっと分化への方向づけをして,すぐにモジュールに入れてやった方がより効率よくいくのかこれは恐らくやってみないと分からないんです。だから,申請書は両方かけてあると思うんですね。明確にこうしますということが書いてないのは,やってみてどちらかいい方を使うということで,その両方とも大いに可能性があるんだと思うんです。三次元的,この前出ましたように,三次元的というよりも2.5次元というか,ある部分は平面的,ある部分は三次元的な構造になってると思いますけども,そのように細胞が密接に相互作用しますと,機能を発揮する場合も,あるいは分化誘導する場合も平面培養とはかなり違ったビヘイビアをするんですね。することが多いんです。したがって可能性としては,ちょっと方向づけをした後に入れてやった方がうまくいくかもしれないんで,多分両方ねらってるというふうに僕は理解してます。
E: 思いついたことを言います。財源の記載がないですね。研究の財源です。ほかの委員会では,倫理委員会も疫学研究もヒトゲノム研究も,一応それを記すようになっているんですね。
A : それは書式でどこかに項目を設けろという話ですか。4ページの,先ほどD先生が御指摘になりましたが,4ページの一番下に一応財源を書いてあるんです。
E: ありますね。フロントに,1ページに……
A : それはこの前もお話ししたとおり,書式は文科省の専門委員会に提出する書式に準じてやるということで,専門委員会の書式の中にその項目がなかったのでこれが入ってないということだと思います。
E: あと,これにも関係してるんですが,一般的に,倫理委員会も疫学研究倫理審査委員会もヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会もそうなんですが,どういう報酬,ペイがあるのかということは一切出てこないんですね。これは倫理審査に関係ないといえばないかもしれない。文科省も一切そういうことを要求していない。しかし,例えばこの研究から利益が出た場合には,患者さんには還元しません,パテントは全部こちらですという文言は全部入るわけですね。研究だという名目で,本当はいろんな形で研究費なりの支援が,かなりの額のものが当然あるわけですね。それは書類上は一切出てこない。このこと自体が,ここだけの問題ではないんですが,私は前からどうかなというふうには思っていました。
A : つまりこの研究によって何らかの経済的利益を生むような状況になったときに,それをどのように分配するのかということを明確にしなさいということですか。
E: どこまでするか,この問題は大きいと思うんですね。だからこそ文科省も何も言わないのかもしれないけども,一般市民として,これは別ですが,患者,被験者が参加するような研究の場合は特にそれが,そういうことがどうも引っかかるような気がするんですね。この場合は特にそういう,被験者,患者さんが参加するわけではないので,問題になりにくいというか,考えなくてもいいかもしれませんが。
A : 確かにそれは非常に大きな問題で,あらゆる研究にかかわることですね。ただ,少なくとも日本の社会の中ではそのことについて決着がついていないと思います。例えば細胞を利用したときに,その細胞のドナーの権利はどうなるのかってことが,余りまだはっきりはしていない。だけども,少なくとも,私が理解してるところでは,ドナーに対して直接的な利益を還元しないということだと思います。したがってこの場合,ES細胞を使うとすると,少なくとも胚のドナーには一切経済的な利益が還元されない,これは指針策定の議論の過程で明確になっていると思います。あとは,このES細胞を使って実際に何かシステムができたときに,それが例えば京都大学の中辻先生,あるいはそこをサポートしている団体との利益関係,権利関係はどうなるのかということに関しては,これは明確ではありません。
E: そういう樹立機関の問題というよりも,例えば今回のこの使用計画書に出ているこの研究にしても,企業とタイアップして,やってますね。クラレメディカルですか。クラレメディカルからの「報酬」に当たるものがあるはずですね。そういうものが日本じゅうの研究,一切表に出てこない形で,当然医学部の中でそういうシステムがあるわけですが,それ自体の妥当性を検討する必要があるかもしれない。
A : いや,先生,それは多分ちょっと語弊があって,一切表に出てこないってことはないでしょう。恐らくみんな表に出てるんだと思います。例えば,これはどういう形で具体的にクラレとの共同研究がなされてるか分かりませんけども,受託研究なら受託研究でそれなりの契約書があるし,委任経理金として処理してるんだったら委任経理金としての書類がある。そこにはそれぞれ条件がきちんと記載されているわけですから,もちろんホームページで公開されているようなものではないにせよ,公文書としてちゃんと残っていて,いずれ必要なときには公開されることになります。
E: 実はそういうものをいろんな倫理委員会に資料として添付する必要はあるのではないかと,具体的にはですね。そのこと自体は検討の余地があるのではないかという。
A : なるほど。趣旨は分かりました。今の御意見についていかがでしょうか。つまり,このヒトES細胞倫理委員会でそのことを議論の対象に含めるべきであるかどうかということだと思いますけど。
E: 余りにもやはり問題が大きいですね。ここだけの問題ではなくて,本当はここよりも通常の倫理委員会や臨床研究,疫学研究,ヒトゲノム研究,こちらの方が大きいんですね。
D: 知的財産部,副学長が来られて説明をされましたよね,たしか。そのときにも,何らかの研究に関するもので知的財産が発生する可能性がある場合には,個人で対応するというよりも大学のそうした施設なりを使って相談してくださいというような依頼があったと思いますから,難しいものといいましょうか,今回のこのものに関しても,他の大学もかかわるでしょうし,企業もかかわる可能性はありますし,非常に倫理に関するところもあったりします。そうしたものというのは,もう個々の倫理委員会のレベルじゃなくて,大学の機関として決めるようなものじゃないんでしょうか。
A : ということは,少なくともその点に関してはここでは議論をする必要がなくて,ここではES細胞を取り扱うことに倫理的な妥当性があるかどうかということを基本的に審査をして,その倫理的な側面については私たちはこういうふうに判断いたしましたという結論を出すと。その研究の持っている,例えば特許の問題とかそういうところは,他の研究と一緒に別なところで議論してもらえばいいのではないかと,そういうことですね。分かりました。
 今のことについて御意見ございます。
H: 皆さんがおっしゃったとおり,問題が非常に大きいので,ここで検討したとしても結論が出せるかということがあるので,委員長の判断は正しいと思うんですけれども,ただ,一般市民の感覚からすると,こういう研究の倫理的妥当性といったときに,お金の問題というのは,特許,知的財産とか研究の成果ということもありますけども,例えば臓器売買のようなものをすごく象徴的に倫理的な問題として感じていると思います。つまり,胚を滅失してES細胞が樹立されるということも大きな問題ですが,やはり金銭が絡むということに関して倫理的な,何というか,ざわざわする気持ちを持つ人は多いと思うので,ここで審議できるかどうかは別としても,その問題をE先生が提起されたことは非常に重要だと思いますし,そういう意識を何らかの形で研究者の方にも持っていただきたいというのを委員会の姿勢として持つことは必要かなとは思いましたが。
A : この点に関して,他の先生方,御意見ございますか。
 今,H先生が言われたその御意見は,なるほど,説得力があると思うんですね,私は。ただ,最初に申し上げましたように,この問題に関しては,臓器売買しない,あるいは臓器提供者に金品をペイバックすることはしないというようなことは,大体コンセンサスになってると思うんですけれども,それ以外の問題に関してはほとんどまだ日本の社会の中でコンセンサスができていないんだと思うんです。
 例えば,我々今特に細胞培養で仕事をしておりますけれども,ヒトの細胞を,初代培養とか,あるいはそれで細胞株を樹立したときに,お互いにどれだけの権利を持ち得るのか。例えば提供者が権利を持ち得るのかどうか,持ち得るとすればどのぐらいなのか。最初に樹立した人はどうなのか。樹立した細胞を使って何らかの工夫をして,直接経済的なメリットに結びつけたところはどうなのかということに関しては,コンセンサスがない状態で,今それでみんなが頭をひねってるところなんですね。ただ,少なくともそういう問題があるということを多くの人が意識をしてるということは事実です。これからいろんなことをみんなが考えながらやっていって,恐らく5年,10年とかですね,気が長すぎると言われるかもしれませんが,その間にいろんな事例が出て,経験を積んで,ある種のコンセンサスが出てくるのかなと僕自身は思っています。そういう意味では,やはりここでそこまで立ち入って議論をしても,恐らく何の結論も得られないだろうと思います。
 したがって,そのことに関しては棚上げにしておいた方がいいのではと思うんですが,今言われた,やっぱりそういうこともちゃんと意識をしてくださいと。つまり,ヒトのES細胞が何らかの尊厳というか,普通の細胞より尊厳を持ってるとするならば,その後の取扱いにおいてもより一層の注意をする,単に,利益を生むことになったからその研究でじゃんじゃん稼いで大学にコントリビュートすればいいというような考え方ではなくて,やっぱりそこのところをちゃんと意識をして,いかに社会に還元するかということを考えてもらいたいと。倫理委員会として,そういう意思表示をするということは大事なことかもしれませんよね。
 分かりました。それは最終的な報告書の中に,もちろん申請者にも直接お伝えするということで,報告書の中にそういう趣旨のことを盛り込むということはいいんじゃないでしょうかね,どうでしょうか。
 E先生,どうぞ。
E: 例えばこのES細胞を利用する研究ではないものも含めて,あらゆる医学研究について倫理委員会にいろんなものが出てきます。その申請書類に,その研究にどれくらい費用がかかるのか,総額幾らなのか,それを誰がどう負担するのか,あとその研究によって全体の利益はどのように還元されるのか,そういうことが一切出てこないままに倫理性を審査させられていると,してるのが日本じゅうの倫理委員会の現状なんですね。私は,そういうことも含めて情報提供していただいた方がよいのではないかという,その点を。文科省もそんなことを一切要求していないです。でも,何かいつもその辺りに引っかかっているんですね。
A : 実際に研究をやる方,私はどちらかといえばそっちの方に属すると思うんですけども,そういう立場から言いますと,それはほとんど不可能なんですよ。要するに研究が最終的にある種の利益を生むというのは,非常に基礎的な研究から一歩一歩ずっと積み重ねていって,しかもそれがどのぐらい成功するかという確率はあんまり高くないままステップが積み重なっていって,最後のところで現実の利益を生むわけですよね。例えば今この研究でも,ここに出されてる範囲の研究では,とても利益に結びつくとは思えない,全く。恐らく特許のところまでも行かないだろうと思うんです。しかしながら非常に長期的に考えれば,もしこれがうまくいき,そしてそれを現実に患者さんにつなげるようなスケールのものができ,それで使えるようになりましたら,それはお金を生むかも知れません。でも,それはまだ大きなギャップがあるわけです。ポテンシャルにはもちろん利益を含んでるけれども,それは今の段階でそれを示すのは不可能です。
E: いや,私が言ってるのはその点ではなくて,現時点でこの研究にどれくらい費用がかかるのか,誰がどのように負担するのか,報酬はどうなっているのか,ということです。将来何か役に立つから,パテントを取れるから,というのは別にして,現時点でこの研究にどれだけの費用がかかるのか,誰が負担するのか,どのように負担するのかということが……
A : 誰が負担するかは書いてはあるわけですよ,ここに。
C: この4ページに書かれてるのはそうじゃないんですか。
E: 総額はどうなんですか……
A : それを書くことを要求してもあんまり意味がないと,勿論個人的な意見ですが,僕は余り意味がないと思います。というのは,これも研究やってる側から言いますと,1000万あったら1000万を使った研究をする。でも,どうしてもやりたい研究課題があって,400万しかなかったら,400万でやれる範囲で研究をやるわけです。もう一つ,研究費というのは,例えば科研費でもせいぜい2年とか3年とかの単位,中には1年単位で来るわけでしょう。それのこれとこれとこれを使ってこのプロジェクトを例えば5年間かけてやりましょうということになると,5年間の総額を見積もれといっても,それは非常にラフな見積りだけであってね……
E: もちろんそれでいい。
A : あんまり意味ないんじゃないでしょうか。
E: しかし,この委員会固有の問題ではないんですが……
A : そうそう。
E: 普通何か計画書を出すときに,総額,予算,事務の分掌でもそうですね。どんな行政庁でも皆そうですね。何年間のプロジェクトでどれくらいの費用がかかるということはちゃんと出てきますが,この倫理委員会に出てくるものには一切それがないので,前から私はどうかなと思ってたんですが。ここだけの特有の問題ではないので,ほかの委員会でも提言して,また岡山大全体でどうするのかということを議論できるならしてもらうように,多少の提言をします。長くなると申し訳ないんで。
A : 多分これは,実験をやってる方の現実から言うとほとんど意味がなくて,要求されても,ラフに考えて適当にこの数書いておこうかということにしかできないし,そうなってしまうと思うんです。
 どうですかね。H先生は今の御意見を聞いてて。
H: 研究の現状というものが全く分からないので,A先生がそうおっしゃればそういうものかなというふうに思う部分もありますが,ただ一般的な感覚として,例えば私なんかも自分がかかわってる活動で例えば助成金を申請する際には,団体の年間の予算決算であったり,あるいはそのプロジェクトに関しての予算であったり,終わったときには決算の報告をするとか,そういうことは非常に厳しく求められます。どこからお金が出て,結果的にどうなってということは,情報公開としても大事なことですよね,社会の中でお金も動くわけですから。そういう意味では,この委員会が問題提起をする一つのやり方として,ラフなものでもいいので,具体的な金額を見たい,それがどこから出ているのかということが知りたいというのは,私としては割とすとんと落ちるところはあります。
A : 分かりました。やっぱりこれは,実際に稼げるか稼げないか分からないお金を頼りに研究してる方とはやっぱり感覚がちょっと違うなと思うんですが,でもその感覚は恐らく大事なんだろうと思います。だから,そういう方向でやった方がいいかなと,僕は今お話を伺いながら思ったんですけど。
 どうですかね,実際に研究されてらっしゃる先生方の御意見は。
D: 規模が違うからなかなか一言で言いにくいんですけども,大きい規模であって,かつ実用性が非常に高いものになったりしますと,助成金のソースというのは非常に重要となってくるわけですね。実際論文なんか出すときも,助成金のソースはどっから来たもので,どういうふうなコンフリクトがあるかどうかというのを示さなくちゃいけませんよね。そこのところも関係してくると思いますから,どこからソースがあって,概算でいいですけども,どの程度使用しましたということぐらいは書いてあってもいいんじゃないかなと思いますね。一般的に言えばタックスペイヤーから,私もタックスペイヤーと,そんなふうな感覚を持ちます。
E: 特にこの研究にだけ出せと,今までほかの倫理委員会でも一切そういうことは要求されていないのに,この研究だけ出せというのも酷かもしれないので,向こうに伝えるかどうかはよく検討しておく必要がありますね。一般的にそういうことが言えるというふうには。その一つとしてここに持ち出したんですが,ほかの委員会でもこれから少し提案,提言しようかとは思ってます。
A : 他に御意見ございますか,先生方。よろしいですか。
 それでは,どうしてもいろんな困難があるので限界はあるでしょうが,もし可能であれば,概略どのぐらいのお金がかかって,もうソースはここに書かれてありますが,概略どのぐらいのお金を見積もって,こういう複数のソースを使ってやるのかというようなことをちょっと書いていただいた方がいいんだけどということはお伝えした方がいいかもしれませんね。じゃあそのようにしましょうか。分かりました。
 では,全体としての御意見。そのほかに,全体的に今の段階であらかじめちょっとということはございますか。
 どうぞ。
H: これは質問になるんですけれども,この計画書の中で,3年程度で基礎的な研究ということで今回申請されている計画を終えられて,その成果をもって今度は実用化に向けて臨床研究を行うということが書かれているんですけれども,たしか今の時点では,ES細胞を使った研究というのは基礎的研究に限定しないといけないというか,そこから先についてはまだ指針ができていないという状況があると思うんですが,その辺りの扱いというのは。
A : その点はいかがでしょうか。委員の皆さんの御意見を伺いたいと思いますけれども。要するに,現在の段階では,臨床研究は認められていないということは明確なわけです。ただし,ヒトES細胞の基礎研究というのは,最終的には,その目的のところにありますように,治療法の開発とか,それから薬剤の開発とか,そういうことに使うわけで,その一部は当然ある種の臨床研究も将来的には含まれてるということなんですね。だから,それに向かっての基盤研究であればいい。逆に言えば,臨床に一切役に立たない基盤研究をやってES細胞を使う意味があるのかということにもなるだろうと思います。そうすると,現在の段階で,この計画書の中に,3年なら3年の計画の中に,具体的にこういう臨床研究をやるってことが含まれていなければ,そういう方向に役に立つような基盤研究であると,基礎研究であるということであればよしとするのか。それでもそれは臨床研究という言葉を使ってはいけないと思われるか,その辺はいかがでしょうか,皆さん。御意見を伺いたいと思います。
D: 臨床家としてひとつ言わせていただきたいと思います。この実験計画書,今回の読んだところと,それからあと評価の基準がありましたね。それを読み合わせたときに,あっ,さすがにうまく臨床応用を考えられてるなと思ったんですね。といいますのは,生体に対して応用は一切しないです。体内の中に入れるということは一切考えられてないですね。体外の装置の中で細胞を使った血液浄化装置として使って,そして浄化された血液だけがまた体に返ってくるというふうに考えられてるところがあって,ちょうどそのはざまである部分をうまく申請されてるなと思って読ませていただいてたんですよ。ですので,今の御質問を聞いたときに,それに対するお答えを恐らく申請者方は持たれてるんじゃないかなと想像いたしました。その意味では,いきなり生体内に戻すことはできないにしても,本当の意味での臨床応用ができるということで,非常に期待される基礎的研究になると私は考えました。以上です。
A : D先生が今指摘されたことは,指針で明確に禁止されてるのは,臨床研究でも特にES細胞に由来する細胞,あるいは派生物を被験者の人体に移植するというところの縛りが非常に厳しくなってるので,現在の段階ではそれは認めるわけにはいかないわけですけど,体外設置型のものを患者さんに使う分には指針に照らしても大丈夫かもしれないという御意見ですね。これはかなり微妙なところで,そこもちょっと簡単には認めるわけにはいかないだろうと思われますけれども。ただし,少なくともこの計画書は,人につなぐということは全く計画外でして,その点は問題はないだろうと思いますけど。
 ほかに御意見ございますか。
E: 仮に人につないだとしても,その場合どうなりますか。その……。
A : 人につなぐ場合は,例えばこれは,移植することは一切禁止されてますけども,例えばつないだときに,100%細胞が一切移行しないという保証ができない,厳密に言えばですね。基本的には行かないと言っても,それはシステムがほんとにそう作動するかどうか分かりませんので,やっぱりつなぐという段階ではもっとはるかに厳密な審査とか,危険性ですね,あらゆる検討が必要だろうと思いますね。
E: 被験者の人体に移植する臨床研究は禁止されているとするならば,それは多少細胞が移動しても,それは移植するという概念には当てはまらないので,こういう議論もあんまり意味……
A : いやいや,それはちょっと甘すぎると思います。つまり,意図しようが意図しまいが,細胞が体内に持ち込まれる可能性があるとすれば,それはやぱり禁止されるべきではないかと。
E: なるほど。
H: 先生,「ヒトES細胞及びこれに由来する細胞を人体に適用する」という言い方なので,もうちょっと概念としては広いかもしれないですね。
E: 「細胞を人体に適用する」か。適用って,この言葉自体変ですね。人体に適用するというのは変ですね。移植するという……
A : それは指針の文章ですね。
H: ええ,2条。
A : それでは,この使用計画書についての評価の「移植する」という部分,これは「適用」に直した方がいいですね。Aの2。移植って僕は書いてますけど,適用ですね。適用というのは結局……
E: 広くなりますね。
A : 広くなる,明らかに。だから,つなぐということもこれはもう明確に禁止されてるということです。ただ,例えば,作ったものをブタにつないで,それで肝不全状態のブタを助けることができるかという,そういう研究は可能なわけですよね。
E: その後にまだありますね。「その他医療及びその関連分野における使用は,別に基準が定められるまでの間は,これを行わない」と。だから,広くだめだと言ってますね。分かりました。
A : そういう全体の状況を考えると,その臨床応用に向けてというか,臨床研究に向けてということを余り明確にというか,強く言いすぎるのはいかがなものであるかという議論が。多少表現の問題かもしれませんけど。
E: この指針自体の問題もあると思いますね。まず指針のこの表現の問題もあると思いますね。この2条の2項には,「基礎的研究に限る」というふうになっていますね。人体に移植する,あるいは適用するうんぬんではなく,もしこの指針に従うならば,これ,基礎研究に当たるかどうかということを判断するようになるでしょうね。
A : ということは,臨床応用を明確に目指した研究は余り適当ではないと。
E: ですね。この文言からするとそのような印象を受けますね。これはどうなんでしょうね。これは大きい問題です。
D: 臨床応用でも,人体じゃなくて動物だったら全然問題ないんですかね。これはちょっとまた難しいところなんですけども。私たちもいつも考えるんですが,人の体に応用できない研究が,発想でいろいろあるんですけど,それをペットとかそうしたところで応用して確認をしていって,それで実績を作ったうえでやがては人にというふうに皆さん考えると思うんですけども,そうしたアニマルスタディーというのが必ずないといけない問題じゃないでしょうかね。
A : 確かにそこのところは微妙ですね。一般的に考えれば,医学で基礎研究をやるのは,最終的にはほとんどの場合は,遅かれ早かれ何らかの形で臨床に応用されて,患者さんの病気を治すのに少しでも貢献するってことを目指してると僕は思ってるんですけど,今のこのES細胞,ヒトの胚の問題とかES細胞に関する日本の議論の現状からして,そこのところがあんまり前に出てくると,あらぬ誤解を生んで,かえって研究が進まないというような意識があるんですかね。
E: 微妙ですね。今ごろになってこういう問題。
H: ちょっと不勉強なんですが,専門委員会なり,科学技術会議などにおいて,審議が進んでいますよね。別に基準が定められるまでの間はこれを当分行わないという書き方をしているので,既にそういう検討が始まってるということはないんでしょうか。
A : 私自身もそこのところを厳密にフォローしてるわけではありませんでした。その点はいずれにしても非常に大きな問題なので,最新の動向を調査をして,可能ならばそういう議論に関与してる先生方の御意見もちょっと伺って,臨床研究あるいは臨床応用からヒトへの適用ということがどの程度の範囲として解釈されて,その議論が現在どうなってるのかということを調査して,もう一度ここで議論をすると,そのようにいたしましょうか。
E: 直接文科省に問い合わせたら?。
A : そうですね。それも一つの手段ですから,問い合わせてみましょう。
 そのほかにございますでしょうか,全般的な観点から。
B: ということは,1ページのBの1番が変わってくるということですか。評価の修正案の1ページのBの研究計画の科学的妥当性のところなんですけれども,これでいくと,将来臨床応用を目指した研究であるかどうかというのが評価の一つのポイントになってきてると思うんですけれども,これがニュアンスが微妙に変わってくると。
A : 実はここの文章は指針の部分をそのまま写して持ってきてるわけなんです。だから,指針ではやはりこういう文章はあるはずなんですけど。
B: ということは,臨床応用を目指した研究というのは否定はされていないということですよね。
E: 細かく言うと非常に微妙なんですが,表現が。「基礎的研究に限る」という文言の後に,ヒトES細胞を人体に適用する臨床研究はだめだと。もう1つですね,そのほか,「医療及びその関連分野における使用」となってますね。研究ではないですね。具体的に使用することは基準が定められるまでは行わないものとするというふうに書いてるんですよね。だから,この,医療及びその関連分野の臨床研究については書いてないんですよね。結局使用という書き方をしてますね。研究はいけないとは書いてない。しかし,最初の文で「基礎的研究に限る」という書き方をしている。これは文科省に問い合わせた方が一番無難だと思いますね。
A : それではそのようにいたしまして,そこのところの概念というか,現在の動向をもう少しはっきりさせたいと思います。それからまた議論しましょう。
 そのほかにございますでしょうか。
 もしなければ,委員の皆さん,既に計画書を読んでいただいたと思いますので,ちょっとこの審査基準の修正案の項目,項目も必要に応じて多少の修正が必要ですけれども,それに準じてそれぞれ御意見を伺えたらと思うんですけれども。
 まずAの1ですけれども,最初に申し上げましたように,この,一般的な倫理基準に大きく抵触してないかどうかということなんです。これについては,先ほどから出てますように,細かく言えばいろんな議論があると思いますけれども,どうでしょうかね,まず概略は。ちょっとこの計画は,とてもこの今の倫理基準から受け入れ難いものでないかという御意見がございますか。よろしいですか。まあアクセプタブルであると,ゼネラルには。
C: ちょっと思ったんですけど,先に禁止事項に抵触しないかとか,そちらの方をチェックしていってからの方がいいんじゃないかなというような気はするんですけど,どうでしょうか。
A : 分かります。その考え方もそうかもしれません。
 それでは,まずですね,その次が,先ほどちょっとこれは文言の訂正が必要だということになりましたけれども,研究目的は,ES細胞に由来する細胞,あるいは派生物を被験者の人体に適用する臨床研究を含んでいないかということですけども。計画の中には臨床研究は含まれてないと判断してよろしいですかね。先ほどの,少し文言の問題は残ってるにしても,実際に計画は含まれてないということで。
 それから3番目は,以下の禁止事項に抵触しないかということで,当面は分化させたヒトES細胞を用いる場合も当面同様とすると。ヒトES細胞から,除核卵への核移植などにより個体を発生させる研究。着床前のヒト胚へのヒトES細胞の導入。ヒトの胎児へのヒトES細胞の導入。ヒトES細胞を導入した着床前の動物胚からの個体産生。着床前の動物胚へのヒトES細胞の導入。これらすべて計画にはなかったと私は理解しておりますけども,この点よろしいですか。
 それから,それじゃあ次の,使用予定のヒトES細胞の樹立や入手方法は倫理的に妥当であるかどうか。このことを証明する根拠は十分であるか。1番,使用予定のヒトES細胞は,指針の規定に準じて樹立されたものか。2番,樹立機関から,当該研究に使用する目的でヒトES細胞を供与する旨の了承を得ているか。3番,必要経費を除き,無償で分与されているかということであります。
 このことについては,計画書に書かれてありますように,この計画ではヒトES細胞は京都大学の中辻先生が樹立されたものを導入するということになっておりまして,その資料も付けられていると思います。中辻先生のところは当然のことながら,1番の指針の規定,専門委員会が認定した樹立機関でありますので,指針の規定に準じていることは明らかでありますし,それから資料によりますと,研究計画が認められれば細胞は供給される。それから,それはもちろん京都大学の配付の基準にありますように,これは無償で行われると。したがって,京都大学から入手される限りはこれらの要件は保証,担保されていると考えられますけれども。この添付資料5にも樹立計画の審査過程が出ておりますけど。それから,添付資料の4には,資料が提供される旨のeメールが添付されております。
 この点について何か疑問がございますか。
 はい,どうぞ。
H: この2番のところなんですけれども,このeメールは昨年の10月9日の段階でやり取りされたものですし,中辻先生のお返事というのも,倫理委員会をきちっと通ったものであればもちろん分配いたしますというようなことです。前回から今回の間に使用計画自体も多少変更がありますし,どこかの段階で,この計画について頂けるんでしょうかというようなやり取りが必要なのかなという印象があります。
A : 今の御意見は,私自身は非常に妥当な御意見ではないかと思います。特に計画内容が変更になっておりますので,中辻先生の側が,この変更された研究計画に対してES細胞を供給するかどうかということについては,改めて問われる必要があるというふうに思います。できれば正式な手紙といいますか,メールではなくてその方がいいとも考えられます。その旨の要請をするということでよろしいですか,改めて。計画概要を先方にお知らせして,改めて許可をもらうと。よろしいですかね。
 では,それはそのようにさせていただきます。
 そのことを前提にしたうえで,このES細胞の樹立や入手方法が,もしそれがオーケーとなった時点では,倫理的には特に問題がないというふうに判断してよろしいですか。
 E先生,よろしいですか。
 それでは,そのように判定させていただきまして,今1番から4番の項目についてお話をしたわけですけれども,臨床応用うんぬんのことはちょっと,微妙な言葉の問題は置いておいて,そのほかにこの研究計画の倫理的妥当性についての検討項目といいますか,こういうこともちょっとチェックした方がいいだろう,あるいはこういう点は少し不適当なのではないかということがございましたら。
 倫理的妥当性と科学的妥当性,あるいは研究体制の問題もすべてが割合入り組んだ,相互に依存した形になってる部分もあるんですけれども,もしここで,特にこの段階で御指摘がないようでしたら,科学的妥当性の方に進みたいと思いますけど,よろしいでしょうか。
 では,Bの研究計画の科学的妥当性というところに進みたいと思います。まず1番は,研究目的がこういう範疇に入るかどうかということで,ヒトの発生,分化,再生機能の解明を目的とした生命科学の基礎研究,又は新しい診断法,予防法,治療法の開発や医薬品等の開発のための研究の範疇に入るか。
 一応今回提出されてる計画は,発生,分化,再生機能に広い意味ではかかわっておりますし,目的が順調に達成されれば,ある種の治療法の開発にもつながるであろうというふうに考えられますので,普通に考えればこの範疇に入ってると判断されると思いますけれども,どうでしょうかね。御意見ございます。
 E先生,どうぞ。
E: この文言は,先生,指針の……
A : これも指針から,指針のですね,どこかにあるはずです。
H: 26条。
E: 26条ですか。
H: 最後の,「開発のため」の前にも「基礎研究」というふうに入れた方がいいのではないでしょうか。
A : はい。入ってます。元の文章はどうなってます。
H: 元の文章は,「いずれかに資する基礎的研究を目的としていること。」
A : ああ,そうですか。分かりました。だったらやっぱりその前にも,「基礎」って入れればいいんですね。
H: そうです。
A : はい,そうしましょう。
E: やっぱり「基礎」が入るわけですね。
H: ええ,こちらも「基礎」です。
E: 26条の1の,「次のいずれかに資する基礎的研究を目的としている」,やっぱり基礎研究という言葉はここにも入ってますね。
A : はい。じゃあ,それを入れることにしましょう。
 基礎研究,この研究計画がそうすると範疇に入るんですけど,基礎研究であるかどうかですけど,基礎研究に入らないのは何でしょうかね。応用研究……
E: 臨床研究です。一般的には基礎研究に対する言葉は臨床研究ですが,この,「新しい診断法,予防法若しくは治療法の開発又は医薬品等の開発」ということ自体は,実際に人間に適用してないから基礎研究という形でこれを行うこともできるわけですか。
A : そうですね。
E: なるほど。だから,今回のこの研究は実際人間に適用していないので,こういう意味での基礎研究というふうに言えるような気もしますね。なるほど。
A : この問題は先ほどのこととつながってまして,基礎研究をどう考えて,臨床研究をどう考えて,現在の段階ではどこまでのことが許されてるかということにつながります。恐らく申請された研究計画は基礎研究の範疇に入るだろうと判断されますけれども,最終結論は,先ほどの調査項目ですね,調査事項が明確になってからもう一度整理をするということで,ちょっとこの点はペンディングにしましょうか。よろしいですか,ペンディングということで。
E: 先ほどの,Hさんがおっしゃったところの,基礎的というのは入れるということですね,この……
A : はい,はい。それは入れます。
E: 基礎研究の範疇に入るかということですね。
A : はい,基礎という言葉を入れたいと思います。
 そして,最終的にこの研究計画がこの項目を満たしてるかどうかについては保留にして,次回調査したうえで結論を出しましょうという,そういうことであります。よろしいでしょうか。
 では次に,計画されている研究は,動物のES細胞やヒトの組織幹細胞で研究が十分に行われ,ヒトES細胞の段階に進むに十分な合理性があるか。他の細胞では同等の,同様の成果が期待できないかということで,そのことがこの申請書で十分説得力を持つかどうかということについて御意見を伺いたいと思います。
 これは先ほど申し上げましたように,1つもう既に出ている問題点は,マウスのES細胞を使った研究で,それで十分なのか。あるいはブタをやる必要がある。ブタはちょっとアベイラブルじゃない可能性が高いんですけど,サルならサルでどうしてもやれという意見になるのかどうかということなんですけれど。
 ただ,これもちょっと確認はしなければいけないんですけど,信州大学で心筋細胞への分化等の研究,使用計画書が出たと思いますけども,あのときもたしかマウスの経験に基づいてヒトをやるということで認められてたという事例があるんではないかと思っています。
 もう1つは,ほかの細胞では同様の成果は期待できないのか。ヒトES細胞を使わないで別な細胞のソースがいろいろ考えられるわけですから,そうした細胞を使った場合,最終的な目標に到達するのにやはり不十分であるかどうか,そこのところの説得力ですね。計画書には,例えばブタの肝臓を使う,あるいはヒトの肝臓の細胞を使う,あるいはヒトの組織幹細胞を分化誘導して使うということが例として挙げられておりまして,それらと比較しても,少なくともポテンシャルにはヒトES細胞が十分なメリットを持つのだという主張が,研究の使用の必要性というところに書かれてあります。この点について委員の先生方が十分説得されたかどうか,あるいは不十分な点があったら御指摘いただきたいと思います。どなたか。
 もしも疑問点があれば私が分かる範囲でお答えしますし,他の先生方にもお答えいただけると思いますけど。
H: それでは先生,3ページの前半部分は非常に専門的なことが書いてあってちょっと分かりにくいので,説明していただいてもよろしいですか。
A : 分かりました。私の分かる範囲で説明いたしますので,関係する先生方,補足説明をしていただければ有り難いと思います。
 ここに書かれてあることは,先ほど申し上げましたように,ヒトのES細胞をなぜ使う必要があるのか,なぜヒトのES細胞を使えば大きな効果が期待できるのかということの補足説明ですね。
 最初に,ブタの肝臓,前ページの終わりごろに,ブタの肝臓を使用した場合が書かれてあります。ブタの肝臓からはレトロウイルスの感染の危険性がある,これはそういう危険性がずっと残ったままであるということで,将来的に幅広く臨床応用が認められるかどうかは非常に疑問であるという主張です。
 そうすると,やはりヒトの細胞ということになります。一番普通に考えれば,ヒトの肝臓の細胞をどんどん増やして使えばいいじゃないかということになるわけですけれど,ヒトの肝臓はあんまり増えないんです。いろんな培養条件で最初少し増えても,すぐに増えなくなってしまうんですね。それで,ウイルス,そこに書いてありますように,シミアンウイルス40の腫瘍抗原て書いてありますけど,この抗原遺伝子を導入すると増えない細胞が増えるようになるんです。それから,テロメラーゼ逆転写酵素って書いてありますけど,これも,細胞をちょっと培養させるといわゆる寿命が来て,分裂寿命というんですけど,何回か増殖すると増殖できなくなってしまうんですけど,これを入れるとその壁を乗り越えてずっと増えるようになるんです。つまり,この2つの遺伝子は細胞の増殖を維持するという作用があるんですね。だから,これを分化したヒト肝臓の細胞に入れて増殖させてやれば使えるではないかと,こういう議論が成り立つわけです。
 ところが,これは一つはウイルスに由来してますし,一つはヒトに由来してるんですけれども,これを効率よく細胞の中に入れてやるためには,運び屋としてウイルスを使います。そうすると,結果として得られるのは,そのウイルスが入り込んだ細胞なわけです。そういう細胞を将来的に人体に移植するとか,あるいは人工肝臓で体外に設置するにしても,先ほど言いましたように,ほんの一部の細胞が体内に入り込む可能性は排除できないと。そうするとやはり危険性が残るので臨床応用として認めにくいのではないかという,そういう議論です。
 Cre/loxP,特異的うんぬんということを書いてありますのは,そういう問題がありますので,外から入れた遺伝子を使うだけ使ったら,それを後で切り出してやろうということです。切り出したから安全だという議論があるんですけれど,でも,切り出しが100%いくかどうかというところにやはり疑問が残ると。
 このように,細胞の増殖,あるいは分化を誘導するのに遺伝子を外から導入するという方法は,もともとの遺伝子を改変するということになりますので,危険性が伴うんですね。だから,改変しないで,遺伝子には一切手をつけないで,例えば成長因子を使って分化や増殖を制御するという方法の方が望ましい。それにはこのES細胞が可能性があるという,こういう議論だと思います。
 その下の方に書いてありますことは,初期のころに行われた遺伝子治療,これは比較的安全と言われてて,実際に安全だから遺伝子治療に使われたんですけど,残念ながらその遺伝子治療を受けた患者さんから白血病が生じたという例があります。この治療法が大きくとん挫してる状況が,いかにゲノムに手をつけた細胞治療に使うのは危険であるかということの一つの例として挙げられております。
 何か,先生方で補足がございましたらお願いします。
E: ちょっと今のと違う,先ほどのBの2ですね。動物のES細胞などで研究が十分に行われるというこの動物に,マウスも動物だけども,この辺りも,もっと高等な動物でやらないといけないのかどうか,指針の解釈ですね。これも一緒に文科省に聞いてみられたらいかがでしょう。
A : 分かりました。それもじゃあ一緒に確認していただくことにいたします。
 ただ,僕は先ほど申し上げましたように,確認いたしますけども,必ずしも例えばサルならサルでやらなくてはヒトには絶対進んではいけないということでは恐らくなかったように思いますね。マウスのES細胞ならマウスのES細胞でそれなりに実績があれば,ヒトに進むのはそれほどギャップのある話ではないという考え方ではなかったかと私は理解しておりますけれど。
E: ついでに言います。動物保護という観点からの圧力といいますか,そういうものも逆にあるので,今先生がおっしゃったようなことになる可能性はありますね。
A : そのほかに,この点についていかがですか,先生方。十分根拠があると思われますでしょうか。もうちょっとこういう点が足りないと,例えばこういう記述もしなくちゃいけないというようなことがございましたら。
 B先生。
B: データ,マウスの肝細胞の分化のデータが添付されていて,アルブミンを発現するようになってある程度分化に成功しているというデータが添付されてるんですけれども,これはこのモジュールに組み込んでの分化の実験ではなくて,インビトロの,培養系での実験と理解していいんでしょうかね。
A : これは明確には書かれていませんで,未発表のデータ抜粋ですので,正確には確認しなければいけないと思いますけれども,おそらくはモジュールに組み込んだ話ではないと思います。
B: そうですね。3ページの記述から見る限りは,これはモジュールに組み込んだ分化の実験ではないと。とすると,もしかするとワンステップとして,マウスのES細胞を使ってモジュールである程度人工肝臓が可能かどうかという実験を終えてヒトのES細胞に進む必要があるかもしれないので,そのような部分の議論というのはあってもいいかなと思います。
A : これも次回申請者と議論ができればと思いますけれども,恐らくは申請者は両方のアプローチをねらってるんだろうと思うんですね。一つは,ある程度分化した細胞をモジュールに入れれば,大体機能は同じかよりよくなるということが今までの例,いろんな細胞の蓄積から推定されますので,ヒトES細胞を培養の中である程度の分化誘導ができてるとすれば,その方向に進むであろうと。未分化の細胞をモジュールの中へ入れて分化誘導がどの程度促進されるかということについては,少なくともES細胞由来の細胞に関しては今後の検討課題ではないでしょうか。それを要求して条件とするかどうかという問題だろうというふうに思いますね。
B: それがエッセンシャルかどうかというのは,今ここの時点では何とも言えないんです,もしかすると必要ないかもしれません。ただ,申請者にその辺りを聞いてみるのはいいのではないかと思います。
A : 今僕が言った両方のアプローチということも一つの想像ですので,その辺りのことの説明は是非伺ってみたいと思います。いずれにしても,それがエッセンシャルであるかどうかの判断は我々がしなくてはいけないことであって,つまりその実験をしないままこの計画を認めるのか,あるいはその実験が行われてそれなりのデータが出た後に初めて認めるのかということは,結論を出さなくてはいけないことなので,お考えいただきたいと思います。
C: 一番最初に意見を述べさせていただいたときに,この3ページのここの部分が,何かもうひとつ明瞭でないというか,そういう面があったもんですから,やはりその辺,もう少し何か明瞭な書き方ができないかなと思うんですが。今の資料,データですけども,説明もあんまり書いてませんし,一体どういう実験を,マウスのES細胞は使ってるけれども,どういう実験条件でされた結果がこうだったのかというところなんかちょっと分からないんで。
A : なるほど,分かりました。確かにここのところは,それこそ今私が,恐らくはモノレイヤーではないかなんて言うこと自身が,資料としては不備であるということですね。もっと実験の実態が分かるように資料を添付するようにと,それははっきり要求することにしましょう。分かりました。
 ほかにございますでしょうか。
 先ほどH先生が言われたときに,僕はちょっと補足説明をしようと思って忘れてたんですけども,ヒトのES細胞ですね,今ここで計画書に出ているようなシステムじゃないんですけど,いわゆる多孔性の担体に詰めて,三次元培養しながら分化誘導するという研究がありまして,それはあんまりコントロールされた形ではないんですけど,でもいろんな細胞には確かに分化するという論文が出てました,最近。だから,三次元的な状況の中で,三次元に近いと言った方がいいんですが,そうした状況の中でヒトのES細胞を分化誘導するということは非現実的でもないし,細胞は生着して,ある種の増殖因子に応答して分化を起こすということは事実としてあるようなんです。
 ほかにいかがでしょうか。
 時間が迫ってきて,予定は2時間ですのであと10分しかないんですけど,今のこの2番目の項目に関しては,この計画書の段階で問題がないというわけにはちょっといかないような皆さんの御意見だと思いますけれども,つまりもう少しこれまでの検討の実態を明らかにしてもらいたいということですね。それからもう1つは,マウス以外の高等動物のES細胞でも検討する必要について確認をするということで,その2つの項目がございますので,これもちょっとペンディングにしておきましょう。そういう問題点があるということを意識したうえで。よろしいですか。
 そのほかにこの件について何か御意見ございます。
 それでは3番目の,この計画が新規性,独自性を含んでいるか,あるいは計画が予定どおり進めば世の中の役に立つのかどうかということですけれども,この点についてはいかがでしょうか。
 D先生,どうでしょう。
D: ええ,妥当だと思います。ただ,予定どおりに進めばと言われてもなかなか難しいところがありますね。
A : あらゆる研究は予定どおり進むかどうか分からないわけですが,まあ,何%と言っていいのか分かりませんが,科学的に見て少なくとも予定どおり進むというか,成功する確率がある程度見込めるのかどうか,常識的な確率で見込めるかどうかということでしょう。もう一つは,それがうまくいった場合に結果として役に立つのかどうかということだと思います。
B: その新規性というところで,もしかするともう少し強調はできるのではないか,書き方を考えた方がいいのではないかということなんですが,3ページの中ほどから少し下,「米国カリフォルニア州にある」というところからの文章なんですけれど,ジェロン社でヒトのES細胞から肝細胞の誘導に成功しているのであれば,これに対してこの研究は更に何が新しい,何を追加できるのか,どういう点を補足できるのか,あるいは発展できるのかというのをもう少し明確に書いた方が,新規性というところの評価では明確に主張ができるのではないかと思います。このままでは何が違うんだろうかという疑問を生むのではないかと思いますけれども。
A : 分かりました。その点は確かにそうでありまして,通常の意味の研究ということからすると,こういう書き方はやや奇異な感じがすると思います。
 ただ,一つ思うのは,御承知のようにこれは会社でして,彼らは明確に商売として研究をしてるんですね。あれもできた,これもできたという結果は外で発表するんですけど,内実は一切公表しない,細かいところは。そこが非常に難しいところで,これもやや想像ですけれども,つまりこのヒトのES細胞を使って将来的にもし今この研究計画が目指してるようなことが実用化したといたしますと,そのときにすべてをジェロン社の特許の下で日本が輸入してそういうシステムを使わざるを得ないのか,あるいは日本でも独自な調合というか,独自の条件下でヒトのES細胞から肝臓の細胞を誘導して治療に使えるようになってるのか,そういう面もあるんですね。古典的な科学研究の精神からいえば,もう既に分かったことと同じことをやる追試に新規性なんかないわけですけど,現在のこの領域では,そこのところが少し違う意義をもつ可能性もあるのかなと思います。
 これも確認してみましょう。ただ,恐らく申請者たちもこの細かい具体的な条件については情報をつかんでいなくて,むしろこの計画に現実味があるということを言いたいためにこれを書いたのではないかというふうに私は解釈してますけど。
D: どこまで情報公開をされるのかなというのは疑問に思うわけですね。肝細胞に分化することに成功した,その一方で中空の,中空糸を用いてのモジュールを作ったと。それをコンバインして何らかの新しいものを作られたいのかなと私は理解してたわけなんですけども,そうしたステップを踏んで来られてるんだろうと予測するんですね。そこのところに新規性なり独自性というものが出てきてると思うんですが,それを全面的に押し出されるか,それともまだまだ条件設定をしなくちゃいけない部分があるから不明瞭に書かれるのか,その辺は申請者の御意見を聞かないと分からない部分であるのかなと思います。
 それと,一番最後の方で,4ページの最後の方にありますよね。この成功した後に分化誘導した肝細胞を破棄する,そして実用化を視野にという,附属病院の方の遺伝子・細胞治療センター,細胞療法のところの細胞治療センターなんですけども,細胞治療センターにおいて何とかかんとかとありますよね。そこのところはちょっと言いすぎかなと思うところぐらいですね。
A : これは先ほどの基礎研究,臨床研究,あるいはヒトへの適用ということをどのように考えるかということに関係してますので,そのことを確認したうえで,必要ならば応用というところの表現を弱めるというか一部削除すると,最終的にはやっぱりそういう調整が必要だろうと思います。その点は次の調査をしたうえでということにしたらどうでしょうか。
 そろそろ,3時になってしまったんですけれども,どうですかね,この3番目に関しては,多少そういう文言の調整といいますか,それはこの次に議論をするにしても,一応この計画がある種の新規性,独自性も含んでいるし,計画がそのまま進めば世の中の役に立つであろうというふうに判定されますか。
D: はい,そう思います。ただ,今御意見を聞いてると,やはり科学研究費の申請書のようにいろいろ工夫された書き方というのがあってもいいのかなと思う部分がありますね。特に使用の方法のところで,5ページ以降の,約2ページちょっとのところですけども,ここなどが,文章で書かれてますので図をうまく入れられたりとかですね,今まで樹立されてる方法とかをくっきりと書かれて,ここのそれ以降のところを新しくするんだというような図も入れられると,より強調されてくると思いました。
H: 今D先生がおっしゃったことはそのとおりだと思うんです。というのが,例えばこれ,使用の方法のところが1,2,3というふうになっているんですけれども,この1の方法というのが,新規性とか独自性があるのかないのかということは,専門の先生方の御判断をいただかないと私には分からないわけです。ですから,D先生がおっしゃったように,ここまでは今までの方法,だがここはというふうなことが分かればいいなと思います。
 それと,しつこいようですけど,やはりこの3番のところを読むと,既に分化誘導された肝細胞を充填して実験をやるんだという書き方になっていますが,モジュールに充填して,そこでの培養や分化誘導についても検討なり評価が行われることはないのかなというのがちょっと疑問に感じましたが。それは派生的なことだから書かなくてもいいことなのかもしれないですけれども。
A : モジュールに詰めてからの機能検定については,6ページの終わりから7ページにかけてある程度の記述があります。培地中のグルコース消費量,乳酸産生量を測定して細胞の増殖を検討し,アルブミン量や各種凝固因子の活性を経時的に測定し,バイオ人工肝としての機能評価を行うと。それから,走査電顕等の形態の解析も行うと。そういうことをやって詰めた細胞がどういう状態にあるかということをモニタリングしようということだと思います。
H: ただ,それがあり得るということで,そうならなかったとかというのは……。
A : えっ。
H: ほんとに研究のことが分からないのであれなんですけども……
A : いやいや,どうぞどうぞ,いいんです。
H: これを読んでいると,まず1番で,こういう方法で培養しますと。そして2番のところで,こういう方法で肝細胞に分化誘導していきますと。これはモジュールに入れたのではないところで分化誘導するんですよね。それをモジュールに詰めて,肝臓としての機能がどれぐらい有効かを判断しますということですよね。もちろんそうなれば一番いいわけなんですけども,3次元的状況はまだ分かっていないことが多いということでしたので,
 例えば,詰めてみたら違うものに分化しちゃいましたというようなことも出てきうるのかなという印象があって,そのこと自体を研究しないのだろうかと思ったのですが,それは目指すものではないから,書くものではないということですね。
A : そういうことです。一般の実験の計画書は,ある実験を計画して,これこれこういう方法でこういう条件でやりますということを書きます。だけども,それがうまくいくかうまくいかないか分からないわけです。うまくいく確率が70%だとしますと,残りの30%は全然そういう方向に行かなかったり,別のものだったり,機能が悪かったりしてうまくいかないと。でも,普通計画書を書くときは,こうやってうまくいけば次のステップに進みます,うまくいったかどうかはこういう方法でモニタリングしますよということは書きますが,うまくいかない可能性を細かく書くことはしません。うまくいかない場合の原因がある程度限定されていて,論理的にちゃんと類推できるんであれば多少意味があるかもしれませんけど,そうでなければいろんなことを細かく類推してもあんまり意味がないんですね。これはうまくいかない可能性もありますとか書いても仕方がないし,うまくいかなかったらここでやめますというのはもう当たり前のことでして,うまくいかなければまたほかの方法を検討するわけですよ。例えば,1番のところで大量に培養して,2番でモノレイヤーカルチャーで分化誘導するわけです。このときにはこういう方法とこういう方法と書いてありますよね。でも,書いてあっても,厳密に言えば,書いてある方法の組合せではうまくいかないかもしれない。更にそこに別のファクター,今ここに書いてないファクターも付け加えるかもしれないという,そういうフレキシビリティーはいつもあるんじゃないかなと思います。
 ただ,D先生が言われたように,もう少し整理をしてシャープに書いていただいた方がいいんですけどね。前回の議論でも出ましたが,我々も申請者とある部分共同してよりよい倫理価値基準を作り,実践していくという立場から,私も計画書については少し個人的な意見を言いましたが,これは最終的に世間に出る文書ですから,皆さんに分かりやすく書いていただくような方向で努力をして頂きたいと思います。
D: 結局,このやられようとすることは,今までやってきた,別々にやっていた基礎的研究を一つにまとめて,ヒトに由来する,ES細胞に由来するんでしょうけども,分化した肝細胞を使って,目的にありますように,ヒトの肝機能の15%ぐらいを持つバイオ人工肝臓を作りたいというのが目的なんですよね。ですから,新規的な,すごく特別な新規的な技術を使ってるわけじゃないですし,発想が新規的に,固有のものを集めてきてという部分が新しいと思うんですね。そうしたところをもっと明確に書かれたら気持ちが伝わってくるので,目的もはっきりしますし,分かりやすい文章になるんじゃないかと思いました。いかがでしょう。
A : そこがちょっと難しいですね。我々の経験からしてもそうなんですけど,培養内で肝細胞を分化誘導してアルブミンが産生されたからといっても,大体産生されてるアルブミンというのは殆どの場合,生体肝臓の何十分の1とか100分の1程度なんです。だから,分化誘導から肝臓への道はまだまだ遠くて,ヒトのES細胞から肝臓に分化するということ自身がかなりまだ研究を要することだと思っています。そういう意味では,むしろ中空糸を使ったモジュールに詰めてうんぬんというところまでまだなかなか行かないんじゃないかと思うんですよ。そうかといって肝臓の細胞への分化そのものだったら,一体ジェロン社のこのデータがあるのにどういう新規性があるかということにもなるので,それをコンバインして一連の流れにすれば,アウトプットから見れば,もし計画どおり行けばですけど,それは非常にインパクトが大きいということでこういう流れになってるんだろうと思ってるんですね。そう言う意味では,どちらに重点を置くか,明確にしすぎるとかえって意図からずれるというところがあるのかなと,僕自身はそう理解してるんですがね。
D: そうなりますと,先生,使用期間ですね,研究期間ですか,承認後から3年間というのはちょっと短くなってこないでしょうか。
A : これはもちろんやってみなくては分からないし,どのぐらいのマンパワーを使ってどのぐらいインテンシブにやるかってことにかかわると思います。計画が順調に進んだとしても,3年たったら15%の機能を持ってるモジュールがそこにあるという可能性は,私はそんなに高くないと思いますよ,最終的にそれを目指すというところはいいですけれども。非常に難しい話です。これは先ほど申し上げましたように,成熟した肝臓から細胞をばらばらにしてきて採ってきて,短期間の間,高次の機能を持たせるということはできますよね。でも,ほかの種類の細胞から分化誘導させて肝機能が出ました出ましたという場合は,実は我々もやってんですけど,肝臓に近い機能というのはなかなか出ません。この点だけでも相当の努力が必要で,モジュールに詰めて肝臓のような働きをするものができましたということはできても,15%といったらこれはものすごい高い目標だと私は思います。逆に言うと,3年でそういうことができれば,これはもう大変センセーショナルなことで,まあ努力目標だと。定量的にやると難しいのであって,その意味では,RT-PCRなんて一番甘いアッセイ法です。
 余り延びて申し訳ありませんが,どういたしましょうかね。一つの考えは,先ほど申し上げましたように,次回には御本人に来ていただいて,プレゼンテーションしてもらって,それから質疑をするということで。検討が途中ですけれども,やはりその方がいいんじゃないかと思うんですけど。今日G先生,I先生,お休みですので,そのお二方の先生も含めて,基本的にこの検討項目に沿って委員の先生方の御意見を,できるだけ詳しい御意見を次回までに集めて,次回全体として討論を進めたいと思うんですけど,それでよろしいですか。
 では,終わる前に一言どうしても言っておかなくてはということがあるという先生,いらっしゃいますか。よろしいでしょうか。
E: ついでにここの文言ですが,Bの3の2行目のところ,「進展や」の後に「診断法,予防法」を入れておいた方が,評価項目としてですね。
A : それはそのようにじゃあ修正いたします。
 それでは,今日の委員会はこれで終わりたいと思いますが,次回に関しましては,先ほど申し上げましたように,全委員の出席と,それから申請者の出席をお願いしたいと思いますので,後ほどeメールで皆さんの御都合,予定を調整をいたしまして,それで決めたいと思いますので,それでよろしいでしょうか。
D: 次はいつごろになりそうですか。
A : できれば来月の後半ということでお願いしたいんですけど。
E: 第4月曜日ですか。
A : ただ,それで決めますとちょっと出席が不可能な先生が……
E: 原則それで,そうなって……
A : 次回に基本的な路線というか方針は出ると思うんですよね。だから,次回は是非皆さん出席されてと思ってますけど。また事務担当の方から連絡をしていただきますので,どうぞよろしくお願いします。
 それでは,よろしいですか。
 じゃあ今日はこれで終わります。どうもありがとうございました。