岡山大学大学院医歯薬学総合研究科ヒトES細胞倫理審査委員会 第14回委員会議事録
日時:平成18年12月25日 午後1時〜2時30分
場所:歯学部第一会議室(歯学部棟2階)
出席者:A,B,D,E,G,H,I,L,申請者B
欠席者:F,K
資料:ヒトES細胞研究実施報告書
   使用計画の一部変更(研究者の追加)について
 
A : 忙しい中おいでくださいましてありがとうございます。
 最初に,今年度から新しくL先生に加わっていただきました。ちょっと簡単に自己紹介をお願いします。
L: 歯学部の顎口腔機能制御学分野のLと申します。専門は歯を失った方のインプラントというものをメインにやらせていただいています。これは歯を人工物で置きかえる,特にチタンという人工物で置きかえる方法です。歯というものを臓器としてとらえて,臓器を新たに作り出すという意味で,今回のES細胞を使った非常に近い分野の研究をさせていただいております。どうかこれから任期の間頑張りますので,よろしくお願いいたします。
 以上です。
A : ありがとうございました。
 それでは,私たちの方も名前だけ言いますけど,私は委員長を仰せつかっております,細胞生物学のAです。よろしくお願いします。
 じゃあ,こちらからお願いできますか。
H: 一般の立場という枠で入ったHです。どうぞよろしくお願いします。
G: 新見公立短期大学の学長のGです。よろしくお願いします。
I : ノートルダム清心女子大学のIと申します。別に理系ではないので細かいことは分からないんですが,カトリック大学,私は信者ではないんですけれども,カトリック大学の生命倫理についての考え方みたいなのは勉強させていただいているので,そういうことで少し発言できることがあったらということで加わらせていただいております。
D: 歯周病態学のDです。研究としてはES細胞を扱ってはいないんですけども,組織の再生というようなところでいろいろ関係しているかなと思います。また,この委員会の中では,私は唯一臨床系の人間だったんですけども,L先生が来られたことによって臨床系が2人になったということになります。よろしくお願いします。
A : ありがとうございました。このほかに,少し遅れて来られると思いますけども,生命倫理のE先生,それから医学部の方から神経機能構造学のB先生,それから薬学部の方から合田先生,以上が委員でございます。よろしくお願いいたします。
 E先生が来られないと成立しないんですけれど,時間の関係もございますし,今日説明の先生もお呼びしておりますので,少し始めたいと思います。既に委員の先生方に資料が行っていると思いますが,今日の議題は2つございまして,1つは以前から行っております,既に進行中の研究プロジェクトについて定期的に報告を受けることになっております。本年度は,本来であれば9月,10月ごろにその報告を受けて委員会を開く予定でございましたけれども,諸般の事情で少し遅れてしまったことをおわびいたします。その分として今日の会議を開いているということでありまして,田中先生の方から報告書を提出していただいたものを委員の皆様にお配りしてあると思います。既にそれはお目通しいただいたことだと思いますけれども,その内容につきまして,今日実際に口頭でも報告をしていただいて,その上で計画が予定どおり進行しているかどうか,申請段階での計画から逸脱してはいないか,何かそのほかに問題点がないか,そのあたりのことを審議していただければと思います。
 それから第2点は,この同じプロジェクトにつきまして研究者の追加をしたいという申請が出ております。これについては,研究者の申請そのものは専門委員会,文科省の方で認められておりまして,私たちが審査すべきことは,その当人が科学的あるいは倫理的な素養,資質がこの研究に参画するのに十分であるかどうかを判断するということであります。この点に関しましても資料がございますし,それから今日,実際に研究を担当しております申請者B先先が来られますので,この当人についての紹介もついでにしていただこうと思っております。
 15分ごろに申請者B先生が来られる予定ですので,その前に資料をお目通ししていただいて,説明を具体的に伺う前に何か御意見ございましたら今のうちに,後で質問も自由にしていただきますけれども,御意見ございましたら何でもどうぞ。
 L先生,この実施報告書をお目通しいただいたと思いますけれども,フレッシュな今までの流れに携わってない目から見て,ヒトES細胞の研究の実施状況がこういう形で報告されているっていうことについて何か御意見ございましょうか。
L: ES細胞の研究は,バックグラウンドがどんどん進歩しているのを感じています。つい最近も胚性の幹細胞,胚としてのES細胞を使わない方法というように随分研究が進んできているのを,最近の報道,それから論文報道等でも感じています。そういう中で,この今,今回審議されている内容というのは,実際にヒトの胚葉から得たES細胞ということで,非常に十分な注意が必要であろうと感じていますし,その認可をされたプロセス,それから以後の経緯についても非常にかっちりとこの研究科で管理をされているということを感じました。ですので,状況が変われば大きくまた変わる可能性もありますが,今の現状では非常にうまく運営されておるものと感じております。
 以上です。
A : ありがとうございました。そのほかの委員の先生方で何か今のこの段階で御意見ございますでしょうか。よろしいですか。
 それでは,申請者B先生が来られましたので,当事者から研究の進行状況の御報告をいただいて,その後に新たに参画させたいという研究者の方の紹介といいますか,科学的なトレーニング状況とか倫理的なトレーニング状況について御説明を受けたいと思います。お話の途中でも結構ですし,後で最後にまとめて質疑をいたしますので,皆さん御自由に伺いたいところを整理しておいていただければと思います。
 それじゃ,申請者B先生,お忙しいところありがとうございました。
申請者B: 今日,本日はお忙しいところまことにありがとうございます。我々のヒトES細胞から肝細胞への分化誘導,そして培養人工肝臓応用に関しますこれまでの研究と当該年度の研究成果,そして今後の計画についてお話をさせていただきたいと思いますので,何とぞよろしくお願いします。
A : マイクもありますから,どうぞおすわりになって。
申請者B: 使用計画の名称でございますが,ヒト胚性幹細胞の肝細胞への分化誘導及びその体外式培養人工肝臓の応用に関する基礎的研究でございます。実験室に関しましては,これは前回の報告会でも御報告をさせていただいたかと思いますが,8階のES細胞専用実験室という形で細胞の取り扱いをさせていただいております。施錠できるようなシステムになっており,入退室に関しましてはこちらの方に記録を付けておりますけども,厳重な管理を行っているということでございます。これまで盗難等大きい管理上の問題は一切起こっておりません。
 ラボノート等に実験の記載を行っている状況でございます。
 ヒトES細胞の培養に関しましては,これは前回報告させていただきましたジェロン社が公開しておりますフィーダー細胞を使わない培養法をずっと採用しております。そしてまた,常に実験のたびごとに胚提供者への感謝の念を持って実験を行う姿勢で取り組んでおります。実際にはフィーダー細胞を使わないかわりに,スライドにお示ししておりますようにマトリゲルというものを使用しております。そしてまた,専門用語ではコンディションドミディアムと称しておりますが,順化培地を用いる方法を用いております。
 これまでの研究の進展状況といたしますと,前回これは御報告させていただきましたが,ヒトES細胞を欠失型の肝細胞成長因子でありますdHGFを使うことによりまして,アルブミンの遺伝子を発現し,そしてアルブミンを産生する肝細胞用細胞への分化誘導の手がかりを得たということで,こちらはセントランスプランテーション(Cell Transplantation)誌に当該成績の方を本年度に報告しました。
 ES細胞に関しましては,京都大学の中辻先先から御提供されました,文部科学省の指針に従って樹立されたヒトES細胞でございます。
 これは今年報告された論文でございますが,ヒトのES細胞を胚葉体を作らずにインシュリン分泌細胞へ分化誘導するという内容でして,胚葉体を作らずに内胚葉の細胞に持っていく方が,分化度,そして効率的にも肝臓とか膵臓といった細胞を作るのに有効ですよというようなデータがネイチャーバイオテクノロジーに報告されましたので,今回,我々は胚葉体を作らないという方法での分化誘導方法を検討いたしましたので,報告をさせていただきます。
 実験に関しましては,8階のES細胞の専用室を使用しました。そして,培養に関しましては,マトリゲルの上でフィーダーフリー法で行うということでございます。しかしながら,この胚葉体を形成しない肝細胞への直接分化誘導法,これダイレクトディファレンシエーションというように英語の方では呼称されておりますが,我々はこのヒトES細胞から胚葉体を形成させることなく,アクチビンAという薬剤を使いまして,5日間培養することによりまして内胚葉への分化誘導を促進した後に肝細胞に持っていこうということを今回検討いたしました。これは肝臓,膵臓というのは内胚葉由来でございまして,内胚葉にまず持っていって,そこから肝細胞を作っていく方が効率的に良いのではないかというように考えた次第でございます。
 アクチビンの至適濃度としまして,10,50,100ナノグラム・パー・ミリリットルというように検討しましたが,100ナノグラムを使いますとどうも細胞障害性が強いようでございまして,50ナノグラム・パー・ミリリットルが至適であろうというふうに考えました。そして,内胚葉のマーカーでありますSOX17と,そしてFOXA2の発現が,RT-PCRとリアルタイムPCRで確認される。いわゆる内胚葉の方向にうまく持っていけるということが少し分かりました。
 そして,こういう誘導法をした後に,先ほどお話ししました欠失型の肝細胞成長因子でありますdHGFを使うことによりまして肝細胞への分化誘導を7日間行うという手法をとりました。そしてまた,この際のdHGFの濃度としますと,100,そして500ナノグラム・パー・ミリリットルの2種類を検討させていただきました。そして,最終的に誘導された,これは肝細胞と言うにはちょっとまだおこがましいのですが,肝細胞様細胞におきまして遺伝子発現としまして,アルブミン,サイトケラチン,そしてα−フェトプロテインたんぱくの遺伝子の発現を調べました。
 欠失型の肝細胞成長因子でありますdHGFの濃度が,500ナノグラム・パー・ミリリットルがどうも至適な量でございまして,そのときに良好なアルブミンと,そしてサイトケラチン18の発現が見られました。そして,今回は最終分化誘導された細胞におきまして免疫染色を行いまして,アルブミンが実際にどれくらい発現しているかということを,培養全体で見ますと18.3%と,まだ我々が目標としています40,50%というところには届きませんが,18.3%に関しましては強陽性でございました。また,当該細胞がアンモニアとリドカインを代謝する能力があるということも確認されました。これが今回の大きな研究成果であるというように考えております。
 実際の先ほどの手法でございますが,アクチビンを使いましてヒトのES細胞を,胚葉体を作らずに5日間培養しました。その後に各種濃度のdHGFを0,100,500ナノグラム・パー・ミリリットルと7日間培養することによりまして,最終的な分化誘導された細胞の形態はこうでございまして,アルブミンの染色率を見てみますと,18.3%のポピュレーションでアルブミンの発現が陽性であったということが分かりました。
 細胞の状態を遺伝子発現で少し検討を行いました。未分化なES細胞の場合は,これは1番でございますが,未分化マーカーでありますOct−4とかNanogといった遺伝子の発現がはっきりと認められます。これをリアルタイムPCRという手法を使いまして定量化いたしますと,やはり発現が高いということが分かります。アクチビンを使いまして内胚葉の方向に持っていきますと,こういう未分化のマーカーがどんどん下がってくるということが分かります。そして,その後に3番は
dHGFで7日間培養したもの,4番目はdHGF100ナノグラムで7日間培養したもの,そして5番はアクチビンで5日間トリートした後にdHGF500ナノグラム・パー・ミリリットルで7日間したという形でございまして,いずれも分化誘導かけたものに関しましては,こういう未分化の発現がほとんど消失しているというふうなことが分かりました。
A : この縦軸は何ですか。ユニットといいますか。
申請者B: これはレラティブインテンシティー(relative intensity)になります。
A : 100っていうのは何を100にしてるんですか。
申請者B: 難易性のβ−アクチンに対するこの比を,これはもうほとんどゼロ,計算上はかなり非常にゼロに近い値ですけども,β−アクチンに対するOct−4の発現を見とります。
A : まあ,いいです。次。
申請者B: 次に,内胚葉の分化マーカーの発現としまして,SOx17とFOxA2の発現を見ておりますが,未分化なものではこういうものの発現は実際に認められないということが分かります。しかしながら,アクチビンでトリートいたしますと,SOx17の誘導がぐっとかかりまして,またFOxA2というと,これはヘパトサイトヌクレオファクター3βとも呼称されていますが,肝細胞の分化に重要である遺伝子の発現がアクチビントリートメントで認められるということが分かります。そして,FOXA2は特に肝細胞への分化誘導に関しては重要なファクターでございまして,こういうものが欠失型の肝細胞成長因子でありますdHGFを使うことによりまして,こういう発現がどんどん上がってくるということが分かりました。
 インターナルコントロールとしましてβ−アクチンをとっております。
 最終の分化産物でございます細胞に関しまして,RNAを抽出されまして肝細胞の関連マーカーとしましてサイトケラチン18,そしてα−フェトプロテイン,胎児型のたんぱく質,そしてアルブミンの遺伝子発現を検討いたしました。そしたまた,インターナルコントロールとしましてβ−アクチンを使用しております。
 実際にこういう分化誘導を行う,そして特に欠失型のdHGFを500ナノグラム・パー・ミリリットル使うことによりまして,こうした肝臓用のマーカーの発現がどんどん上がってくるというようなことが分かりました。一方で,α−フェトプロテインの発現もこう上がってきていますので,今のところ我々が分化誘導しているものは,どうも胎児型の肝細胞のフェノタイプでありまして,それを今後の課題としますと,成熟型,大人型の肝細胞のフェノタイプに持っていく必要があるだろうというように,この実験結果は示唆しているわけでございます。
 実際に培地中に薬剤でありますアンモニア,そしてリドカインを培地中に添加いたしまして,その薬物の消失率を見ることによって代謝率というものを検討いたしました。そうしますと,やはりアクチビンで5日間トリートいたしまして,その後dHGFで100ないしは500ナノグラム・パー・ミリリットルを使うことによりまして,実際にはアンモニアを添加した8.4%,そしてリドカインに関しましては9.6%を代謝する能力を有していたということが分かりました。
 実際に我々の現在の手法は,凍結保存等一切行っていませんので,細胞を培養するごとに何か細胞に異変が起こっているというようなことも十分検討しておかなければいけないということで,未分化状態が維持されているかどうかということを少し検討いたしました。そして,これは,継代数1のときに,未分化な指標としますと,アルカリフォスパターゼの活性が陽性かどうかということで未分化状態の維持が行われたかどうかということの一つの指標になりますので,染色いたしますとES細胞はこういうふうに陽性に染まってきます。そして,継代数20でもアルカリフォスパターゼの活性があるということが分かりました。そして,遺伝子の解析を行いまして,Oct−4,そしてNanogといいます未分化マーカーに関しましても,肝細胞への分化誘導を行わない,いわゆる未分化で継代を行っている細胞に関しまして,未分化状態が保持されている。我々のフィーダーフリー法で未分化状態が良好に保持できているということが確認をされました。
 今後の実験計画といたしますと,現在までの分化誘導されたものは18.3%と,まだ分化誘導効率が少し低いことと,それと,どうもまだ胎児型の肝臓細胞としての形質発現をしているというようなことで少し肝細胞の成熟化を図りたいということ,そしてまた肝細胞への分化誘導効率を上げたいというようなことで,肝臓の中には肝細胞だけではなくて,非実質細胞と言われます肝臓の血管細胞,そして胆管細胞,肝臓の星細胞というような仲間の細胞たちがいますので,こういう細胞と一緒にES細胞を共培養する,ないしは,こういう細胞から得られるコンディションドミディアムを使うことによってそういう発育を促そうということを考えました。
 こういう実験をサポートするデータとしまして,これは今年の11月に我々がネイチャーバイオテクノロジー誌に報告いたしましたが,マウスのES細胞でございますが,マウスのES細胞にこういう肝臓の非実質細胞と共同培養,共培養することによって肝細胞への分化誘導効率が伸びるというようなことが分かりましたので,ヒトのES細胞に関してこういうものを応用していきたいというように考えております。
 次いで,今年1年間の岡山大学での講演会の開催,そして海外施設への訪問,生命倫理セミナーへの参加といったES細胞に関する活動の実績について御報告をさせていただきたいというように思います。
 これは今年の3月10日でございますが,現在共同研究をしておりますネブラスカメディカルセンターのアイラ・ジェイ・フォックス教授,そしてジェロン社のジェイン先生に来ていただきまして,「ヒトES細胞を使用した細胞療法の開発と倫理的問題点の考察」というような形で,ミーティングを行わせていただきました。
 そして,4月27日にはESから分化誘導された肝細胞が薬物代謝の領域でどういうように利用できるのかというような,そういう可能性に関しまして,金沢大学の横井先生においでいただきまして御講演をお願いいたしました。そして,近隣の韓国ですね,特にES細胞に関しましては,衝撃的な事件が起きたりしまして,現在ヒトのES細胞の使った肝臓を標的とした細胞治療のレギュレーションは今韓国でどうなっているのかというようなことで,ヨンセイ大学の外科のキム助教授に来ていただきまして,4月に御講演をお願いしました。
 そして,今年の10月にはアメリカ肝臓病学会の帰りにジェロン社の方を訪問いたしまして,ES細胞の研究動向について,彼らの企業的な戦略等についてお話を聞かせていただきました。こちらの先生がジェイン先生でございます。
 そして,今年の10月10日には北京大学の生命科学院の方を訪問いたしまして,中国の北京大学では現在2つの中国人由来のES細胞の株ができております。中国では今肝不全というのが非常に大きい問題でございまして,B型肝炎が何と人口の10%,いわゆる1億3,000万人の人達がB型肝炎に中国では罹患しておりまして,人工肝臓の開発というのは非常に医療上の緊急問題であるというようなことでございまして,バイオ人工肝臓を通して共同研究をしましょうというようなことで,国際交流計画書を本学の研究協力課の方に1カ月前に提出させていただきました。
 こちらは北京大学でございますが,大きい湖がありまして,こちらの方にはちょっと古めかしい建物もあって,非常に格式の高い大学と共同研究が開始できる状況です。
 また,これは今年の10月に神戸の理研でES細胞の生命倫理セミナーがありまして,こちらの方に出席をさせていただきました。
 研究の問題点といたしますと,これまでのところ,細菌等の汚染は認めておりません。ES細胞研究を始めまして1年1カ月がたちまして,盗難等の管理上の問題面も非常に厳格に管理できておりますので,凍結保存を施行しても盗難等の大きい問題が生じる可能性は極めて低いのではないかというように思いまして,凍結保存に関してはそろそろ時期的に保存許可の申請を行わさせていただきたいというように,思うわけでございます。
 そして,これは前回のときにもお話ししたと思いますが,フィーダーを使わない分,コンディションドミディアムを頻繁に使用する必要がありまして,高価であるというようなことがありまして,現在は我々が樹立しました肝臓の非実質細胞のコンディションドミディアムを使うことで代がわりができないかというようなところで,少し有効な手がかりを得ていますので,そういうものにこれはかえていけるというような計画を立てています。
 ただ,現在の手法ですと,18.3%に肝臓用の細胞が出現しているんですけども,やはりそこを選択的に回収することによってより機能の高い集団だけが集めれるんですけども,ただそのためにはある程度遺伝子操作が必要になりますので,現在の手法では肝細胞にだけ分化した細胞を効率よく取り出せるということはちょっとできないというのはやっぱり問題点かと思います。
 今後の方針,課題といたしますと,先ほど述べましたように,実験が経過して1年1カ月,安全に実験も施行できてるというようなことで,1年過ぎれば時期的に凍結保存の申請を行わさせていただいてもいいんではないかというように考えております。
 そして,肝臓の非実質細胞株のコンディションドミディアムを使用することによってコスト削減を図りたいということでございます。そして,肝臓用細胞に分化誘導された細胞だけを効果的に回収するというような方法を少し考えたいと思っております。そういう手法の一つといたしますと,肝臓の細胞の特徴的なことといたしまして,アルブミンの発現が陽性であるというようなことがありますと,アルブミンプロモーターの下流にクラゲのたんぱくであります緑色蛍光たんぱくを発現するプラスミドベクターが使用可能でございまして,こういうものを一過性に分化誘導した細胞に発現させることによってアルブミンプロモーターが陽性のいわゆるGFPの蛍光を発するものだけを回収してくれば,順化ができます。既に,欧米ではこうしたヒトのES細胞株がもう既に樹立されておりまして,そういう研究も実際に進んでおります。エジンバラ大学再生医療センターのザオ先生達はこういう細胞を持っておりまして,共同研究をしませんかというような御提案も来ていますので,日本,京都大学が樹立しました細胞だけではなくて,海外のそういう細胞も同時に評価することによってデータのシェアリングといいますか,共同研究の促進が図れるんではないかというように思っております。
 こうした研究を進めるにはやはり研究者の追加というものが必要でございまして,今回メキシコからの留学生,大学院生でございますが,ジョージ・デービット先生の御参加を承認していただいて,今後の研究をより一層推進したいというように思っています。
 字が非常に小さくてまことに申しわけないのですが,マウスのES細胞を取り扱った経緯もございまして,また学会発表も彼自身が筆頭で行っております。そして,ジェロン社でヒトES細胞の培養法を勉強したという経緯もございまして,昨年の神戸の倫理セミナーに参加するといった,そういう倫理的な姿勢に関しても,非常に前向きな研究者でございます。そしてまた,非常に優秀な研究者でございますので,彼が参入することによって,またこの研究が一段と前進するのではないかというように考えております。
 これはジェロン社で研修を行いました写真です。これは昨年の8月でございますが,彼がジョージ君でございますが,ES細胞の研修を修了しましたという証明書をジェロン社のジェイン先生の方からいただいております。
 そして,日本語も大分上手になってまいりまして,昨年の8月には神戸の倫理セミナーに出席しましたということで,西川先生から出席証明書をいただいております。
 研究の総括でございますが,ES細胞の実験に当たりましては,常に胚提供者への感謝の念を持ちまして実験を行わさせていただきました。そしてまた,実験に関しましては,消化器腫瘍外科学の8階の研究室を使用することによりまして,ヒトのES細胞だけを取り扱って,そして入室・退室に関しても厳重な記録をとっとりまして,こちらの方に使用記録書として入室・退室の記録書の方を持参させていただきました。管理面でも特に問題はございませんでした。使用計画書どおりにこれまでのところ実験ができているだろうというように考えております。そしてまた,より一層の研究の充実を図るために研究者の追加を希望したいというように思っております。
 そして,前回の報告会の後に,チン・ユウ(陳勇)先生とアレジャンドロ・ソト先生の本研究への参加をお願いいたしまして,9月8日に承認を受けました。そして,その後実地指導を行いまして,まだ実際にES細胞の培養自体に関しましては,直接彼らはまだ行っておりませんが,私の後ろで細胞の培養を見学するという指導をこれまで計51回行いました。その方の記録に関しましても,使用記録書の備考の欄にその旨を記載しておりますので,御参照いただければと思います。
 以上,御静聴ありがとうございました。
A : 申請者B先生,どうもありがとうございました。
 それでは,その記録簿をちょっと回覧をしていただけます。
 ただいま研究の進行状況につきまして詳しい御説明をいただきました。この研究がルールに基づいて行われているか,それから2番目はES細胞の価値を生かすために研究が順調に進展することが望まれておりまして,そのような方向で進展しているかどうか,3番目は計画書が先に提出されておりますから,その計画書に記されている内容から逸脱していないかどうか,そのあたりが私たちの判断の基準になろうかと思いますけれども,そういう観点からせっかくおいでいただきましたので,幾つか質問をしていただきたいと思います。
 まず,私から少しお伺いしたいんですけれども,先ほど実験ノートの写真がちょっと出ました。それで,皆様御承知のように最近はいろいろ実験データの取り扱いに不適切なところがあって,全国的に幾つかの事例で問題になっております。そういう際もさかのぼって調査をするためには,実験ノートを整備しておくことが非常に大事な要件になっているわけですね。今の場合に,ヒトのES細胞を取り扱う場合には,実験ノートはこのヒトES細胞の取り扱いの研究専用の実験ノートという形になっているんでしょうか。
申請者B: そうです。
A : つまり,一人の人が,もちろんヒトES細胞の研究だけじゃなくてほかの研究もするわけだけれども,ヒトのES細胞に関する研究に関しては,それは独立した記録ノートになっていると。
申請者B: ES細胞の研究データだけを記載するという形で,管理しております。
A : 分かりました。先ほどお話がありましたように,実際に研究を始めて1年1カ月がたって,その間もとになる細胞はずっと継代しているわけですね,凍結をしないということなので。何回ぐらい継代,つまりどのぐらいの頻度で継代するんですか。
申請者B: 細胞の密度にもよるのですけども,2週間に1回は必ず必要です。
A : そうすると,先ほどP20まで性質が変化しないということなので,2週間というと,まあなるほど,そうするとおおざっぱに言って40週。先ほど申請者B先生もおっしゃいましたように,今の背景からしますと,細胞を凍結するということは,いろいろ能率的に実験を進めるということにとっても大事ですし,それから幾つかのマーカーで見て変わらないといっても,やはり継代中にどこかが変わっている可能性も否定できないので,凍結しておいて同じ性質を使った細胞を繰り返し使えるということは,非常に大きな利点ですよね。だから,適当な時期に申請されて,少しそういう方向を試みた方がいいと私も思いますけどね。
申請者B: ありがとうございました。我々の方法はジェロン社の方法に準じておりまして,彼らのデータですると,1年以上問題なく,いわゆる染色体異常なく,未分化な状態が保てるというようなことは報告をしておりまして,我々の検討でも何となく1年ぐらいは問題なさそうだということは分かっていますが,ただ培養という非常に非生理的な環境下でございますので,細胞が未分化な状態じゃない,いわゆる少し違ったような形の分化をしてくるというような可能性が十分ありますね。そういう意味で,そろそろ分化の凍結保存ということを考えたいと。ただ,余り早い時期にこれ申請させていただきますと,やはり管理面等でこれは8階の専用室で施錠ができるような形で細胞の取り扱いを行ってますけども,どういう問題が出るかなというような不安もございましたので,1年間は少し管理面ということを重視して様子を見させていただきました。
 1年というのが早いのか長いのかという問題もございますが,これ以上細胞を培養していって細胞の性質自体がおかしくなってしまうということになりますと,何の研究をしているか分からなくなりますので,1年というところはジェロン社の報告,そして管理面と,そういう2つの面から申請させていただければというように切に思っております。
A : 分かりました。それから,当然意識されとると思いますけれども,先ほど国際協力をして,イギリスの新しい細胞を使う試み云々も,やはり計画変更ということですよね。
申請者B: そうですね。当初はやはり日本で樹立された細胞を使いましょうということで,日本の細胞を使用させていただきました。海外の先生方とやはり意見交流する場合に,海外で今もう何十種類とありまして,樹立された細胞株,例えばH1,H2,H7,H9というようにヒューマンのHに数字をつけられていますけども,樹立された細胞間で非常にその性格が違うといった報告もあります。例えば,H1は肝臓の細胞に分化しやすいけれども,H7はどうも脳神経細胞に分化しやすいというような,また,例えば増殖が良いとか増殖が悪いとか,ES細胞の中にそういう性格に違いがあるようでございますので,やはり国際的な議論をする場合に,同じ細胞を使うということが世界的な細胞治療の貢献には大事であると考えます。
 京都大学で樹立されました細胞に関しても,1年従事してきた経緯がございますので,可能であれば京都大学の日本で樹立された細胞も同時進行で,細胞分化の種類によって違いがあるのかどうかというあたりを検討させていただければ,国際共同研究の推進という意味でもメリットがあるというように考えております。
A : そうですね。サイエンスの常識からすれば,やはり比較可能な条件下でさまざまなところで実験をするということが一つの非常に大きな条件ですから,当然そういう方向に向かうべきであろうというふうには思いますね。
 もう一つは,研究計画の審査のプロセスで細胞の評価,分化した細胞の評価を定量的に行うことということがかなり重視されて議論されたわけですよね。今の場合に,例えば18%の細胞がアルブミンポジティブであるということで,そういう意味では定量的なデータが出ているわけですが,アルブミンの分泌量で比較すると,どのぐらい出ますかね。
申請者B: 分泌量が以前のデータで,不織布等を使った場合は,これが350ナノグラム・パー・ミリリットルですね。正常な人の場合が,これは1,500から2,000ナノグラム・パー・ミリリットルですので,6分の1程度と。今回の手法を使いますと,250ナノグラム・パー・ミリリットルと,前回よりは少し低いです。ただ,ディテクトできる,分泌が確認されているということです。ただ,凝固因子に関しましては,第7凝固因子で検討をしたのですが,残念ながら検出されませんでした。1つには,凝固因子というのはビタミンK依存性に作られますので,培養液中に十分量のビタミンKが入ってないという可能性もございますので,これに関しては培地中のビタミンKの濃度を少し変動させて,再度検討したいというように思っております。
A : 分かりました。委員の先生方から質問ございませんでしょうか。
G: アルブミンを見られる経緯で,生体の肝臓を見られましたか。体の肝臓のセクションを作って,何%の細胞が染まるか見られましたか。
申請者B: ええ,生体の肝臓は一般には使えないんですが,我々は,ヒューマン・アニマル・ブリッジといいまして,HAB協議会というところが移植不適合の肝臓が入手可能となっております。これは倫理委員会の方を通しまして,米国で移植の不適合なものが日本に一部輸入されて,研究に使えます。HAB協議会というものは,そういう移植不適合臓器を米国から受け入れを行っておりまして,その参画機関にヒト肝臓等の提供がございます。我々はそういう移植不適合の肝臓でございますが,それに関しましてはアルブミンがユニホームに染まっております。
G: 以前の京大の浜島先生が,人間の肝臓のの組織をアルブミン抗体で染めた場合,大体10%ぐらい陽性ですよ。肝臓はあるステージによってアルブミンを作る。100%の細胞はつくってない。だから,18%の陽性率にこだわる必要はないと私は思います。
申請者B: 先生がおっしゃるように,少し染色で正常の場合でも強い発現と弱い発現と,発現,染色性に少しむらがございます。我々のこの写真というのは,本当に強陽性だというところを撮影しておりますので,G先生の御指摘を考慮させていただくと,もう少し分化誘導効率が高いのかもしれません。ただ,実際に培地中に出てくるアルブミン量がやはりまだ少ないですので,分化誘導されている効率はもう少し高いとしても,機能的にはまだ我々が目指しているものまではちょっと到達できていないと考えております。ありがとうございました。
G: 私は18%にこだわる必要ないし,特別アルブミンのプロモーターの後に蛍光蛋白を入れて発現させてみても意味はないと思う。18%だったら十分じゃないか。むしろ肝細胞にゼネラルなマーカーを見られる方がいいのではないかな。サイトケラチン18はどんなんでしょうか。
申請者B: サイトケラチンに関してははRT-PCR法での検討しかまだしておりません。
G: それを蛍光染色で見たら,全部100%になるのでは?
申請者B: ええ,まだその染色の方はできておりません。是非検討させていただきたいと思います。
G: 確かにアルブミンは100%染まらないですよ。人間の肝臓を染めても。
申請者B: ありがとうございます。
A : そのほかにございませんでしょうか。研究の内容もそうなんですけれども,もっと大事なことは,実験そのもが適切な条件下で適切なルールのもとに行われてるかということも非常に大事ですので,そういう観点から御質問がございましたら。どうぞ。
L: 非常にすばらしい成果を見せていただいたんですけども,先ほどの追加で1人研究者を追加したいというお話で,僕たちも研究の手技であったり,実際のノウハウを後輩に伝えていく教育という観点では非常に苦労しておりますが,限られた本当に研究者の中でこれをやっていくということは,新たに追加した方は外で教育を受けられてますですよね。例えば,どこでしたっけ。会社で教育を受けられたり,それから外の機関の倫理の講習会に行かれたり,これ非常に外的な妥当性を検討するのと非常に重要だとは思うんですけれども,先生,今後今の現状,限られた本当に人だけでやっていって,どのようにそれを後進に伝えて,どんなふうにこれを,先生一人だけのノウハウというわけにはいかないと思いますし,どのように考えられているか,今の現状を含めてお教えいただけたらと思います。
申請者B: そうですね。今,私の方からジョージ先生に研究への参加を御依頼したわけでございますが,ちょっとこちらのスライドを見ていただければと思います。この彼が担当者でございまして,現在ソト君は今年の9月8日に文部科学省の方で認可をいただいております。こちらは,ナルさんといいまして,この3名はメキシコからの留学生でございまして,ソト君とジョージ君はほぼ同じ時期に岡山大学の方にまいりまして,2年間私の方の教室で実験を一緒に行ってきた経緯があります。ジョージ君もES細胞に対して研究をしたいという,非常に旺盛な熱意がございまして,我がES細胞の研究や培養を行っていますと,後ろでずうっと,見学はソト君と同じようにしております。しかしながら,ソト君がマウスのESから肝細胞への分化誘導という研究に早い時期に従事していましたので,彼の方を早く申請したというような理由がございますが,研究の熱心さ,そしてマウスのES細胞を取り扱った経験,そしてまたヒトのES細胞の培養を実際に私の後ろで見ているという経験回数に関しては,ソト君と何ら遜色はなくて,その入室記録簿の方に記載しておりますが,ジョージ君も非常によく見学をしております。
 外国人大学院生が本研究に参画する場合に,研究力に関してどれくらい成熟度といいますか,スキルがあるかというようなことが問題になりますので,しっかりトレーニングをしたというような経緯はございます。
 それともう一つは,やっぱり倫理的な観点が日本人と違う場合がありますので,なるべくセミナーに参加してもらって,ES細胞が樹立された経緯とか,ES細胞を取り扱うときのスピリッツというようなものに関しては教育をしてきました。
 それと,ES細胞の培養は,他の細胞の培養と違って,メンテナンスが非常に難しゅうございまして,必ず2日に1回は培養液を交換したり,細胞の形態を観察しないといけないというようなところがありまして,なかなか日本人の研究生だけでは研究がままならないというようなところが実はあります。外国人大学院生の場合は365日,毎日でも研究に専念できるというようなとこもありますので,そういう研究面でのメリットがございます。このような技術をどう残していくかということになりますが,実は我々の特許技術として岡山大学からこういう技術を開発して,現在知財部の方がございますので,そちらの方に申請応募したいと思っております。そして,JSTの支援を受けるというような形で,大学の財産として,そういう手技を残していくというような形ですね。なるべく豊富に写真を撮る。そして,実験ノートを充実させて,誰もが将来的に再現できるというような形で技術を残していければ良いと思っております。特許化して技術を残す方法は,大学の知的財産の面からも好ましいことではないかと考えております。現在1件特許申請の方を行っております。
 以上です。
A : ありがとうございました。今のことでちょっとコメントをいたします。私の理解では,具体的にヒトES細胞の直接的な取り扱いについて技術的な指導を,例えばアメリカに行って受けるということは,ある意味ではやむを得ないと思います。つまり日本の国内では,ヒトES細胞を取り扱うこと自体に許可が必要なわけですね。そのための,今その前段階の素養を積むという,そういう段階なわけです。だから,今から申請して許可を受けますと,これからある意味での内部的なトレーニングが始まるということで,先ほど申請者B先生がちょっとおっしゃったように,昨年の9月ですか,認可された人はその後少しずつ取り扱いのトレーニングをしているということですから,そういうことで技術が受け継がれていくんだろうというふうに思いますけどね。
 そのほかにございますか。
 はい,どうぞD先生。
D: 使用記録簿を見せていただきましたら,大部分は申請者B先生が細胞を扱われているような形になってて,他の共同研究者の先生が時々入られてますね。ですので,他の方々の関与が少し分かりづらいなというのが1点あります。
 もう一つは,記録簿の中に,見させていただきますと,どなたが使用されたかチェックがない,名前のところに丸をつけられてないところが何ページかありますので,それはやはりきちっと作成していただきたいと思います。
 それからもう一点,今の大学院生の方に話が進んでいましたけども,この資料1の書類を作られたのは結構古い段階なんですかね。今現在この方のパブメドに載っているだけでも10件論文があるはずですよね。4編しか出ていませんので,ちょっと資料が古いのかなとか思ったりする部分があるんですけども。
申請者B: 済みません。非常に重要な御指摘,記録簿の方ありがとうございました。細胞の方に関して,私が極力,直接培養するようにしております。学会等で私がどうしても不在なときに他の共同研究者のY先生にお願いをしております。そして,学会等の場合はなるべく,継代できるものなら細胞を継代しておいて,なるべくその期間は実験を施行しないというような形で,私が細胞の状態を常に把握できて,細胞を管理をするという体制で行っております。私がメインでさせていただきまして,私の次が共同研究者のY先生と,全員技量を持っておりますが,彼が分担者の中では,一番信頼度が高いというような理由でそのようにさせていただいております。
 ジョージ君の論文に関しましては,これは今回のプロジェクトは肝細胞ということ,そしてES細胞ということですので,この代表的な4点という形で載せさせていただきました。
D: ESでもマウスのESなどが最後に示されておりましたが,スライドの中にありましたが,最新のネーチャーバイテクノロジーなどがちょっと抜けておりますので,あれっと思った次第です。
申請者B: 済みません。どうもありがとうございました。
A : ほかにございますでしょうか。
 今新しい人材についても質問が行っていますので,僕もちょっと聞きたいんですけれども,このジェロン社に8月23日に行ったと。そこでトレーニングというふうに書いておりますけれども,8月30日には神戸で講習会に出てるということで,ジェロン社では何日間のトレーニングを受けているんですかね,これは。
申請者B: これは3日間でございます。
A : 3日間のトレーニング。
申請者B: はい。
A : そのほかに,特に専門,いわゆる理系の生物学的なフィールドにいらっしゃらない委員の先生方の御意見も重要だと思いますけども,I先生,何か,どうでしょうか,ごらんになって。最初計画段階の審査のときにいろいろ御心配もいただいて進行してきたわけですけれども,今の段階でまあまあ許容の範囲で進んでいるというふうにお考えでしょうか。
I : はい。だんだん話が難しくなってきまして,今日御説明いただいたのもなかなか門外漢には分からないことが多いんですが,計画の大きな枠組みの中できちっとやっていただいているように思います。
 今日の御報告と直接関係のない質問なのかもしれませんが,私もこれに加わらせていただいて,新聞等で世界のいろんな動向が出ていると興味を持って読ませていただきますし,たしか申請者B先生の研究のことについてもしばらく前に新聞に出ていたのを拝見したりもしたんですが,今の世界的な研究の進行によって今までの御計画がちょっと見直しが必要だなというようなことがおありになるのかどうなのか,そういうことについてちょっと教えていただけるとありがたいと思います。
申請者B: 今,世界の現状としますと,ブッシュ大統領のES細胞研究を中止しているというふうな発言がございましたが,ハーバード大学はES細胞の研究にもう独自で乗り出しましたですね。ですから,昨年韓国で大きい倫理的な問題もございましたが,やはりヨーロッパ,そしてアメリカを中心には確実にES細胞研究というものは進んでいるように思います。我々は,ジェロン社の動向にいつも注目をしているんですけど,やはり特許等に関しても一番彼らが世界をリードしていますですね。私の記憶では1995年ぐらいから肝臓の細胞への分化誘導を彼らは始めていました。つい先日,2カ月前に訪問いたした際に,カリフォルニア大学のサンフランシスコ校と共同して,どうも来年ヒトES細胞から神経細胞を分化誘導して臨床試験に移るのだというような話をしておりましたので,そういうような臨床試験が一旦スタートすれば,やはりこの研究というのはまた多くの研究者の医療への応用という意味では期待が持たれると思っておりまして,非常に重要な研究であるということですね。それと,私自身このES細胞の研究をしていまして,常日頃思うのは,発生学というのは非常に大事であるということですね。ES細胞自体をいろんなものに分化誘導させるという技術は,これは科学という面で非常に大きな情報を与えてくれるし,これほど研究の材料という言い方をしますと,失礼なんですが,細胞を対象としますと非常に奥が深いといいますか,そういう意味でも私はES細胞研究というのはやはり生命の発生というようなものに直接関与していますので,研究の題材としても非常にすばらしい材料であると思っております。ですから,これが基礎研究だけではなくて,やはり将来的な治療というようなとこまで,近い将来そういう有効性が見えてくれば,これはもう爆発的な大きいエネルギーとなって,一つの大きい学問として位置づけられるというように考えてます。
A : ほかにございますか。H先生はよろしいですか。
 もしございませんでしたら。
 では,申請者B先生どうもお忙しいところありがとうございました。
申請者B: 今日はどうもありがとうございました。
A : では,御退席ください。
 それでは,申請者B先生退席されましたら・・・。
申請者B: どうもありがとうございました。
A : 御苦労さまでした。質疑を続けたいと思います。B先生が先ほどから御出席いただいて,今E先生がやっと御到着されましたので,定足数を充足いたしまして,成立しております。
 最初に申し上げましてけれども,今日の議題は2つございまして,1つは研究の進捗状況をチェックするということであります。もう一つは,新たな参入者の希望をどう扱うかということでありまして,まず第1の点ですけれども,先ほど申し上げましたように,主な点はヒトES細胞の取り扱いの国内における基準というものを遵守して研究が進行しているかどうか。それから2番目は,最初に提出された計画書の枠内で物事が進行しているかどうか。3番目は,ヒトES細胞の価値を生かすという意味で,研究が停滞してるのではなくて,進展しているかどうか。そのあたりのことが判断基準になろうかと思いますけれども,その観点から御意見をいただければと思います。
 G先生いかがですか。
G: 順調にいっているといえばいっているし,倫理的に問題になるほど研究が進んでないと言えば進んでないし,厳しいことを言いました。
A : ここは倫理審査委員会ですので,倫理的な枠組みを超えないということが最大の基準でございます。そういう観点からすれば,今の段階で特に問題とすることはないということでしょうか。
G: 問題はない。
A : ほかはいかがですか。D先生いかがでしょう。
D: 何点かの今後修正をかけられるだろうと思われるような表現を使われておりますよね。新しくできたものから持ってくるとか,それから凍結は何やかんやというような問題提起をされているというところから見ると,まだG先生が言われるように倫理委員会で容認した範囲内にとどめられてると思います。
A : ありがとうございます。最初の申請書の審査の段階でも議論になりましたけれども,研究というものはやはりどうしてもやってみて,その進行状況に応じて具体的にこういう方策をとる,ああいう方策をとるということが出てきますよね。だから,それが当初の研究計画を逸脱するということであれば,修正の計画書を提出していただくということになります。当初の計画書の中には,細胞は凍結いたしませんというふうに明確に書いておりますので,それは当事者の意識しておられるようですけれども,凍結するということであれば,計画書の修正申告をしていただくと。それから,使う細胞も京都大学から導入して使うということも明記しておりますので,それも先ほどちょっと注意を喚起しておきましたが,変更届が出されるだろうということだと思いますね。今のところはそういうことにはなっていないので,範疇の中にはあるかなと,そういうふうに理解されると思いますけれども。
 H先生どうですか。
H: 今日お伺いしているのは,これまでに当初にお話があった計画が少しずつ進んでいっているということだろうというふうにはとらえていますが,今先生が御指摘のように幾つか変更が出てくる場合には,例えばそもそも最初にはこういうふうに言っていたのは,やっぱり理由があってそういうふうな限定をされていたんでしょうから,それはそういう理由だったんだけれども,今度はこういうふうになるんだというようなことを少し,あるいはほかの世界的な例とか,そういう判断材料になるようなものもお示しいただきながら,変更申請をいただいた方が,そのときに検討しやすいかなというふうには思いました。
A : ありがとうございました。それは変更申請が出されるときに当然のことながら,なぜそうであるかということの御説明はいただくことになると思いますので,それはその時点でまた御審議いただければと考えております。
 E先生,B先生,資料をお目通しいただいて,お話も一部聞いていただいたと思いますが,全体として御意見がございますか。どうぞ。
B: D先生が指摘された点と同じ点にちょっと注意がいきまして,実験の記録のノートで,実験者がほとんど申請者B先生だったんですね。あと全然記録のないページも何ページかありました。主に申請者B先生が実験されているのかなっていうので,その共同研究者がさらに必要であるっていうような申請が出てくる,その状況を考えてみて,主な研究者が申請者B先生であるというのと少し食い違いがあるのかなっていう気がしました。
A : ありがとうございます。多分今の問題点は2つありまして,1つは記録ノートに一部不備があるということで,これは重大な問題ですから,改めてそういうことのないようにという注意をこの委員会としてしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。よろしいですか。
 それでは,この委員会の総意として,一層の注意をするようにということを後ほどこの研究計画の責任者であります田中先生の方に注意書を送ろうと思います。
 それから,2番目の問題に関しましては,先ほどの申請者B先生の説明によりますと,いろんな人をトレーニングもしつつ,少しずつそういうふうに受け渡していきたいんだけれども,できるだけ慎重を期してみずからが主体になっていると,そういう説明なんですね。確かにヒトES細胞の取り扱いに関しましては,特に日本では非常に制限も厳しいし,倫理的な要求性も厳しいということで,そこで慎重になるということも理解ができる。それを徐々に経験を積んで,これで1年ぐらいたったので,少しずつ範疇を広げていきたいということであろうというふうに私は受けとめたんですけどね。
 よろしいでしょうかね。E先生,何かございますか。
E: 特にありません。
A : 特にほかにございませんようでしたら,現在の段階でこの研究計画の進行状況につきましては,先ほどの記録ノートを完備するというか,記録を完全にするという1点を除いて許容の範囲であるということでよろしいですか。
 ありがとうございました。それでは,そのようにこの委員会としては判断したということにしたいと思います。
 次に,2番目の問題は,1人研究者を追加するということでございます。この人の基本的な資格に関しましては,大学院生でもよろしいということに専門委員会の方でなっておりますので,基本的な資格はあるというふうに思われますけれども,当人についてここに書かれてあることから判断して,当人が科学的な素養,あるいは倫理的な素養がこのヒトES細胞の研究に参画するのに十分であるかどうか,そのあたりの御判断をいただきたいと思います。
 どうでしょうかね。D先生どうぞ。
D: この方の履歴書プラス業績を見させていただいて,2005年以降の論文発表と学会発表があるんですね。特に2006年が多いわけですけども,2006年はほぼ終わったから大分研修されているかなと思う部分があるんですが,大学院生として海外から来られて日本語研修を終えて,昨年度,2005年から大学院生としての生活が始まったというところだと思うわけです。ES細胞等の絡みがあるような学会に入られているかなと思って,見てみたら,2つの学会に入られて,どちらとも少しは関係あるなと思いますが,もう少しトレーニングされていてもいいんじゃないかなと思う部分もあります。ただ,4年間という短い中でやろうとされて,今から手続をされていきますと,3年目で恐らく認可されるということになるんでしょうから,残りの研修期間が少なくなりますので,必要性というのは十分感じます。ただ,他の今まで審査された方々と比較しますと,少しサイエンティフィックなバックグラウンドには弱いかなと思うところがあるというところです。
 以上です。
A : ありがとうございます。ほかの委員の先生方,ただいまの件に関しまして,あるいはそのほかのことについて御意見ございますでしょうか。
G: 私は共同研究者として認めてあげていいと思います。
A : ありがとうございます。そのほかに御意見ございますか。
 はい,どうぞ。
L: この方に関しては,僕はもうこれでこの方を加えるというのは賛成であります。1つだけちょっと気になるのは,先ほども申請者B先生だけがさわっていらっしゃるというような感じになっておりましたですが,実際に申請者B先生も大変お忙しい方で,そんなことは不可能に近いわけでありまして,共同研究者の方をちゃんとリストされて,そしてその方がちゃんとさわったときには,さわったということをむしろ確実にレポートしていただくことの方が重要である。ですので,余りきつい制限を設けずに,十分な資格さえあれば認めてさしあげることは重要であるというふうに思います。
A : ありがとうございます。ほかに御意見ございますでしょうか。
 はい。
D: もう一度,今のお二人の御意見を聞きますと,研究の遂行という意味と,この方の教育ということを考えていきますと,共同研究者として入ってよろしいということなんですけども,そうなりますと,手を出していくわけですね。そうすると,今の申請者B先生にすべておんぶしているような研究の進行体制ではまずいと思うわけです。ですから,この方に入っていただく,そうすると手を出す。となれば,そのためのバックアップとしての細胞の凍結保存とか,そうした技術的なクリアすべき面というのも出てくるんじゃないかなと思うわけですね。いざ彼に助けてもらった。しかし,コンタミネーションが起こって大変なことになったというのでは,また困ったことになると思います。そういうので,参加させる,研究者として認める。そうであれば,技術的な改善点もクリアしていただくという形が必要じゃないかと思います。
A : ありがとうございます。確かになかなかいろんなことに悩みながら実験をされてるんだろうと思いますけれども,一方で安全度を考えると中心となる申請者B先生ができるだけの多くのことをやってる方が安心だということがある。しかし,なかなかそういう体制ではもう追いついていかないのでないかと,周りから見てもそう思うので,もう少し段階的な責任の分担の仕方,それから段階的なトレーニング体制とか,教育体制とか,そういうことをきちっと作っていくということが大事なんでしょうね。今先生が言われるとおりですね。例えば,次の申請者B先生のすぐ下にいる人がもう少し研究にも参画して,少し責任ある立場からでないと次の人も教育できないわけですから,そういうことも段階的に考慮して全体を整備するという主張があるだろうというふうには,確かにおっしゃるとおりだと思います。
 ただ,これは委員会として研究チームの中身のやり方の細かいところまで注文つけるのも,ややどうかということもありますので,公的に委員会がどうこうというよりも,そういう方向で何か努力をしていただいた方が先の研究もスムーズだろうというようなアドバイスみたいなものですかね。そういう意見もあるので,御検討くださいということですかね。
 ほかにございますか。よろしいでしょうか。
 それじゃ,そういう非公式のアドバイスみたいなものも含めて,基本的にはこの人はサイエンティフィックなバックグラウンドも倫理的な面も大丈夫であろうということで,一応参画するための申請はこの委員会としては認めるということでよろしいですか。
 では,そのようにさせていただきます。
 これで予定されていた議題が終わりまして,その他の項目なんですが,その他では私たちの任期が来年3月31日で終わることになっております。ただし,この委員会そのものは存続いたしますので,事務局からの希望はできるだけ留任をしていただきたいんですということなんですけれども,留任をしていただきたいんですよ,それが大前提なんですけど,特に外部の委員の先生方でどうしてもこれこれこういう理由で私は平成19年4月からはもうできないという方がいらっしゃいますでしょうか。できないというお話がある前に,皆さんそういう話はなかったということで,原則的にはできるだけ留任という方向でやらせていただきたいと思います。ありがとうございます。
 次に,現時点での情報によりますと,別のセクションからヒトES細胞を使う研究計画を出したいという話がございまして,まだいつ出てくるかよく分かりませんけれども,恐らく来年の3月までには出てくるのではないかと。そうすると,4月ごろから,2回目ですからこの前ほど大変じゃないかもしれませんけれども,少し今のペースよりはやや詰めた検討が必要かとも思われますので,御協力のほどよろしくお願いいたします。
 それでは,よろしいですかね。この次の委員会は。
事務担当: 次回は,また申請が出た段階で日程を改めて調整させていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
A : ということですので。それでは,今日はこれで終わりたいと思います。ありがとうございました。