ごあいさつ

医学部長 吉野 正  

 

 本医学部は明治3年(1870年)に創立され、2010年に140周年記念式典を挙行しました。明治3年は大河ドラマで取り上げられた坂本竜馬事件のわずか3年後にあたります。現在までわれわれは一万人を優に超える医師を生み出し、看護師、臨床検査技師、放射線技師とともに全国、世界に有為な人材を輩出しています。明治中期には、初代文部大臣森有礼の視察結果による決定により、関西中国四国地区唯一の医学部でした。このような歴史と伝統のなかで幾多の著名な臨床医、基礎研究者、社会医学者を先達とすることができています。われわれはこの伝統を誇りとしていますが、しかし、それに安住することは許されません。


 「あなたのそばに先進医療」というのがわれわれの目指す方向性を簡明に示しています。あなた、とは患者さんでありその周辺の方々すべてを包含します。その傍にあって距離感なく先進的な医療を提供することを目指しているのです。チーム医療の重要性が近年強調されていますが、先進的医療を行うためには医師、看護師、臨床検査技師、放射線技師すべてが高いレベルにあることが必要です。また、傍にあっての医療とは地域医療そのものであり、明日の医療の礎となる基礎的臨床的研究の推進、社会医学による貢献をも含むものです。先進的かつ高度な医療の実績としては遺伝子分子標的治療、各種臓器移植、小児心疾患治療などがあり、非常に広い範囲で斯界をリードしているという自負を持っています。このような医療を展開するためには優れた医療人の養成が必須条件ですが、中国四国関西地区を中心とする250余の関連施設の存在と協力なくして成しえません。

 優秀でコミュニケーション能力に長けた人材を医学科、保健学科で教育し、卒業と資格取得後、岡山大学病院と関連病院にて高い臨床的技量、優れた患者接遇、精度の高い臨床検査、最新鋭の画像検査の実施できる能力を高めていくことがひとつの重要な側面です。医学科教育においては、早期体験実習、自主的学習態度の醸成のため現在変革の真っただ中にあります。保健学科ではチーム医療演習、チーム医療論が開講され、また、全国でもまれな解剖実習を施行しています。さらに、本学は大学院化しており、多数の院生を医歯薬学総合研究科、保健学研究科に受け入れ研究指導しています。学部教育と大学院教育をシームレスにしつつ卒後の研修を並立させ、ともに優れた結果を生み出すことは大変難しいことではありますが、これこそがわれわれの使命です。両者をシームレスに繋ぐためにARTプログラムというユニークなシステムを全国に先駆けて実施し、その有用性を示すことができています。本医学部が今後発展していくためには、医学科、保健学科の緊密な連携は言うに及ばず、大学院生、各講座、各関連施設に関係したすべてのひとびとが一丸となって岡山大学医学部を核として活動することがきわめて重要で、それは現在の姿勢をより深く広く進めていくということです。
 医学科の歴史は前述したとおりで、保健学科の前身は1922年に創立されました。すなわち2020年には医学部150周年となり、保健学科もほぼ100年の歴史を刻むこととなります。これは大きな節目です。そこで、現在から2020年までの約10年間をルネッサンスと位置づけ、教育環境と内容の整備、研究者養成システムの充実、診療関係施設の拡充と更新、社会に開かれた鹿田キャンパスとすべく施設の新営と歴史ある既存施設の活用といったことを計画しています。これらの計画が実現したあかつきには次の50年に向けて力強い第一歩を岡山大学医学部が踏み出すことができると確信しています。

 医療活動は重責であり、肉体的にも精神的にも厳しいところがあります。しかし、それだけに大変にやりがいのある分野です。われわれ自身、日々新たに、という気持ちで活動いたしますし、広報活動はオープンキャンパス等々で活発に展開してまいります。全国の有為な高校生が本医学部を目指していただきたいと心から念願いたします。

【医学科教育の特徴】

 先進的で系統的な教育プログラムを用意しています。入学直後から5〜6人のグループで議論と思考を重ねて問題探求するテュートリアルがあります。また、臨床医学のエッセンスを紹介する臨床医学入門、医療介護施設での実体験があります。医学英語では、専門領域での実践的な英語力を伸ばします。その後基礎医学で生命科学の先端を系統的に学び、基礎病態演習においては自主的学習態度が醸成されます。3年次には、「医学研究インターンシップ」があります。これは、3ヶ月間、学内外、海外の大学で研究に従事するプログラムです。毎年、20名前後の学生が海外へ出かけていきます。4年次から臨床講義が始まり、5年次からは臨床実習が開始されます。臨床実習時間は全国大学でも有数の時間数となっています。6年次後半の卒業試験後国家試験を迎えることになります。最近「先進医学修練コース(ARTプログラム)」も導入しました。これは学部学生の時代から大学院講義を履修でき、卒業後大学院の早期修了を可能にするプログラムです。卒業後、岡山大学病院での研修プログラムに加え、大学病院と関連研修指定病院とによる病院群を構成し、より多彩なプログラムを提供しています。また、大学院の充実に努めており、一般コースの他に、臨床専門医養成コース、がんプロフェッショナルコース、高齢者・在宅・緩和医療プロフェッショナルコース、国際臨床研究コースが設けられ、各学生の自由なキャリア設計に基づく幅広い選択が可能となっています。

【保健学科教育の特徴】

 保健学科では、生命への畏敬と探求心をもち、医療保健活動、教育研究を通して常に自己を磨いて人間の健康と幸福に貢献する有為な人材を養成します。学部教育では、医師、歯科医師、薬剤師になる学生と相互理解を深めるためにチーム医療演習、チーム医療論を開講しています。解剖実習を実際に施行して大学は全国的にも稀です。このような教育システムの結果、医療人としての感性、広い視野と独創性、科学的思考性と問題解決力の向上に資する基礎能力を養います。看護学専攻では、人間尊重とヘルスプロモーションの精神を活かし、講義・演習・実習のカリキュラム編成や実施に当たって多くの工夫を凝らしています。学生の意見もとり入れ、よりよい学習環境を作るよう努力しています。放射線技術科学専攻では、医学・理学・工学の基礎学問の修得、最新の放射線機器の操作を含む幅広い実践的技術と応用力の獲得、医療人としてのモラルの向上を教育理念としています。検査技術科学専攻では、幅広い基礎知識と応用能力、たゆみない探究心と医療人にふさわしい人間性を育てて、科学の成果をいち早く医療に生かすことを目指します。さらに学問追究心が高まった場合には保健学研究科が用意されており、熱心な研究指導のもとで、修士号、さらに博士号の取得の機会が選択できます。

 

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